シーラじいさん見聞録

   

「怪物だ。おまえも気をつけろ。ときどきここに来るから」
「何をしに来るのですか?」
「この奥には、おれたち、つまり、おれやおまえがいる世界のようなものがあるかもしれないのだ。そこにいるものが・・・」別の男が話をさえぎった。
「説明してもわからないよ。イルカは頭がいいといっても、他の動物と比べたらということなんだから。しかも、抽象的なことは理解できない。何をするかだけを言えばいいのだ」
「身振り手振りで、何をするかわかるイルカは多いだろうが、このイルカは、おれたちの言葉を理解するだけでなく、しゃべることもできる。相当の知能をもっている証拠だ」金髪の男はそう答えると、オリオンのほうを向いた。
オリオンはすかさず聞いた。「どうして、ここにいるんですか?」
「このあたりをセンスイカンで調査していて、怪物に襲われたんだ」
「やはり、そうでしたか」
「待てよ。ここに来るときに、すごい怪物がいただろう?一つ目が赤く光るのが」また別のニンゲンが聞いた。
「いました。何回も襲ってきましたが、みんなで攻撃をかわすことができました。
今は、ぼくたちが仲間を早く探すように言ってくれています」
「そんなことがあるのか?センスイカンを叩きつぶすような怪物だぜ」
「それじゃ、おまえの仲間はどこにいるんだ?」誰かが聞いた。
「近くにいます。連れてきてもいいですか」
オリオンはすぐに、ルゲルたちが待つ場所に戻った。そして、事情を話して、全員でニンゲンがいる場所に行った。ニンゲンは、オリオンの後から、リゲル、シリウス、ベラ、ミラが来るのを呆然と見ていた。
しばらくして、「これは普通のシャチや、マグロ、クジラじゃないか。しかし、別の種類のものが一緒に行動するなんて聞いたことがない!」最初オリオンを利用しようと言ったニンゲンが首を振った。
「ところで、迷いこんだ仲間は見つかったのか?」金髪の男が聞いた。
「見つかりました。ここにいます。ペルセウスです」
ペルセウスは、前に出て、頭を下げた。
「ペルセウス!名前があるのか」
「ぼくらには全員名前があります」そして、一人一人紹介した。
ニンゲンは、何が起きたのかという顔で互いを見た。誰かが、「これは奇跡だ。希望が出てきたぞ」と叫んだ。
「おまえたちに頼みがある」という声と同時に、「やつらが着た。隠れろ」という声が重なった。
オリオンたちは、すばやく潜って、そこを離れた。しばらくして、誰も追ってこないことを確認して、止まった。
ペルセウスは、「いつもの場所で、様子を見てくる」と言って、ゆっくり泳ぎだした。
オリオンたちも、ゆっくり海面まで上がり、光が届かない場所に移った。
ミラのように大きいものがゆっくりニンゲンのほうに向かっていった。ペルセウスの話が言っていたように、頭がかなり大きい。
ニンゲンも、その怪物のほうに歩いていった。そして、怪物が口から何か出すと、ニンゲンはそれを受けとった。そして、しばらく話をすると、怪物は戻っていった。
ペルセウスが戻ってきた。「あいつだ。あれがいつも来る」
「また、戻ってくるのか?」「いや、2,3日は戻ってこないはずだ」
オリオンたちは、ニンゲンがいる場所に向かった。ニンゲンは、怪物が見えなくなったのを確認して、「おれたちも嘘をついていないだろう?あいつは学者のようだ。奥には、帝国のようなものがあって、獰猛なものもいるようだ」
「今、何か渡しましたね?」オリオンが聞いた。
「見ていたのか。あいつらは、おれたち人間のことを知りたがっていて、新聞や雑誌を持ってくる。おれたちは、教えてやるのだ。おまえのように英語をしゃべるものもいる」
「ぼくらも、シーラじいさんに聞きます」
「何を?」
「ニンゲンについてです」
「おれたちの何を知りたいんだ?」
「なぜ怪物があなたたちを襲うようになったのかということです」
「どういうことだ?」
「怪物だけでなく、ぼくらの世界にいるクジラ、サメ、シャチ、イルカなども、観光客や漁師の船を襲っています。ニンゲンも兵器を使って対抗しています。
また、空を飛ぶものも、ニンゲンを襲っていると聞いています」オリオンは説明した。
ニンゲンは黙った。「あいつらから、そんなことは聞いていない。人間のことを知りたいと言うので、教えているだけだ」
「今も、もう少し教えてくれたら、返すと約束してくれたんだ」別のニンゲンが言った。
「センスイカンはなぜ襲われたのですか?」オリオンは聞いた。
ニンゲンは泣きそうな顔になった。オリオンは高い知能があるとわかったのだろう、誰も黙ってしまった。
「何があったのですか?」オリオンは、さらに聞いた。
「おれたちは、海洋学者、地質学者、動物学者などの科学者なんだ。センスイカンを動かす兵士や政府の役人も、ここに連れてこられたが、みんな死んでしまったので、よくわからない」
「この美しい場所は、元々帝国の城だったと聞いているが」
「おれたちは、海底のさらに奥に、貴重なものがあるから、調査するように国から命令を受けただけなんだ」
ニンゲンは、裁判を受けているように弁明を続けた。

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