シーラじいさん見聞録
そして、最後の力を搾りだして、空を飛んでいた鳥が驚いて逃げるほど大きな音を立てて飛びだした。
しかし、みんなほとんど意識がなかった。体だけが激しく動いていた。穴の磁力から逃れるために、体力を使いつくしていたのだ。
長い間そのままだった。近くを通ったものは、大勢死んでいると思ったことだろう。
ようやく意識が戻ってきた。みんな、あたりを見まわしてミラを探した。記憶も戻ってきたのだ。
ミラは、まだぐったりしていた。大きな体なので、その分引きつけられる力が強かったのか。
リゲルたちは、お互い何も言わずにミラの回復を待っていた。ようやくミラが体を動かしたので、リゲルが、「あれは何だった?」と聞いた。
ミラは、ハッというように目を開けた。
「ああ、あれは、オリオンが言っていたように、センスイカンだった」
みんなの意識が完全に戻った。「やはり!」同時に声が上がった。
「何をしていたんだろう?」、「ニンゲンはいたか?」、「他には?」次々に質問を浴びせた。
「小さな窓から、中を覗いたが、何も見えなかった。ぼくらが出会うときは、怪物のように大きな目が光っているのに、真っ暗なんだ」
「待機しているのだろうか?」
「よくわからないが、まるで岩のように動かなかった」
「シーラじいさんに聞こう」
そのとき、シーラじいさんが近くまで来た。
「シーラじいさん!」同時に叫んだ。
「何かがものすごい勢いで、上に上がっていくのを感じたのでな。おまえたちにちがいないと思って、追いかけてきたのじゃ。何かあったのか?」
ミラが、もう一度話した。
「光もなかったというのじゃな」
「そうです」
「センスイカンのまわりを何回も回りました。光も音もありませんでした」
「そうであれば、ニンゲンは脱出したか、中で死んでいるかのどっちかじゃ。
センスイカンが故障して、大勢のニンゲンが死ぬ事故もあったそうじゃが、今は、他のセンスイカンが助けることもできるかもしれん。
ただ、センスイカンに関しては、どこの国も秘密にしているようでな」
「どうしてですか?」リゲルが聞いた。
「ニンゲンは、相手を絶滅できる核兵器というものを発明した。それをセンスイカンに乗せて、相手の国の近くまで行って、発射するのじゃ。
だから、他の国どころか、自国の海軍でも、どのセンスイカンがどこにいるかもわからないようになっているそうじゃ。今回も、そういう秘密主義で穴に入ったことが考えられる」
「じゃ、あそこに大きな穴があることを知っていたのですね?」
「そうじゃろな」
「何があったのでしょうか?」
「それはわからん」
「穴の奥にニンゲンの別の世界があるのかもしれないというのはどうですか?」シリウスが聞いた。
「それもありうるかもしれない。しかし、ニンゲンも、大気がないと死んでしまう。それが、穴の奥にあるかとは考えらないがな」シーラじいさんは丁寧に答えた。
「それなら、クラーケンに引きずりこまれたのかもしれない」シリウスの想像は続いた。
「それじ、あの穴にはクラーケンがすんでいるの?」ベラが聞いた。
「とにかく、ペルセウスは、何かをつかんだんだ。それで追いかけているにちがいない。絶対そう思う」シリウスは、さらに自説を述べた。
「センスイカンをもう一度調べよう」リゲルが言った。
シーラじいさんは、もはや反対しない。リゲルたちが、自分たちで、一つ一つ学んでいるのがわかったからだ。
全員体に異常がないことがわかると、すぐに穴に向かった。そして、硫化水素が止まったのを確認して、穴の近くに行った。
「やあ、来たね」早速、ハオリムシの子供の声が聞こえた。
「この前は、きみに挨拶もしないで帰って申しわけなかった」オリオンが答えた。
「いや、いや、そんなこと気にしなくてもいいよ。ここは、ぼくらには極楽でも、きみらには地獄だ。
それなのに、命の危険を顧みず、こんなところに来るなんて、使命感がないとできないことだ。ところで、何かわかったかい?」
「ありがとう。穴の奥に、センスイカンといってニンゲンが乗るものがあったんだ。
それで、どうしてあるのかを知りたいのだ」
「センスイカンって、どのくらいの大きさなんだ?」
「ここにいるミラぐらいなんだ。あっ、きみらは見えなかったんだね」
「そんなこと気にしないでいいよ。見えないけど、感じることはできる。
今、きみと同じくらいの人が後一人。そして、もう少し大きな人が2人。そして、飛びぬけて大きな人が一人いる。じゃ、その人ぐらいの大きさなんだな」みんなびっくりしたが、子供は続けた。
「姿は見えないけど、感じることはできるんだ。きみらにも、それができるようだけど、見えない分、きみら以上に感じることができる。
ぼくは、仲間の中では、その能力が高いと思っていたが、きみらに会って、もっと能力を高めようとしているんだ。今では、姿も感じることができるようになった。
あっ、時間がない!すぐに調べに行ってくれ。後は任せろ」子供は叫んだ。
「わかった。それじゃ、調べてくる」
全員、競うように穴に飛びこんだ。
奥に行くにつれて、体があちこちから引っぱられそうになったが、力の入れ具合が少しわかって、引っぱられる寸前に反対に力を入れると、仲間から離れることがなくなった。
すぐに、センスイカンがいる場所に着いた。そして、近づこうとすると、赤い光がパッと光った。