シーラじいさん見聞録
ペルセウスはその勢いにたじろいだが、シーラじいさんから聞いたことを思いだして、ようやく落ちついた。
「実際食料が減ってきているのはまちがいない。しかし、あの演説では、やつらが原因だと決めつけて、やつらを退治すればすべてうまくいくということだった。
しかし、そうだろうか?
ぼくらは地球という星にいる。それについては演説でも言っていた。
そして、ぼくらが住んでいるのは、地球の中の海という場所だ。広さは地球の70%あるということだ。
やつらは海に住んでいないが、そんな広い海が汚れてしまっては、やつらも生きていけないのは、やつらのほうがぼくら以上に知っている。
だから、何とかしようと動きはじめているのは、演説をした者で知っているはずだが、それについては一切ふれなかった。
演説で言っていたようなことをしては、きみたちのためにならない。やつらは、船や潜水艦というものに乗っているので、ぶつかっていっても、きみたちが傷つくだけだ」
「きみは、やつらの味方をするのか」別の者が言った。
「いや、そうじゃない。憎しみだけでは何も生みださないと言っているだけだ」
「それではどうしろと言うのだ」
「今はよくわからない。それで、仲間と海を見てまわって、どうしたらいいのか考えることにしている」
「そんなことをしている間に事態はどんどん悪くなるだけだ。とにかく、おれたちが何もしないでいても、帝国では、やつらへの攻撃を開始しているということだ」
「それは誰から聞いたのか?」今度はペルセウスが尋ねた。
「親しくなった兵士たちが言っていた。詳しくは教えてくれなかったが」
もう少し聞こうとしたが、若者たちはさっと消えた。
ペルセウスは、シーラじいさんにどのように報告しようか考えていた。
そのとき、一つの影が見えた。先ほどの若者の1人がもどってきたようだ。
ペルセウスが声をかけようとしたとき、若者が口を開いた。
「さっき、きみは仲間と海を見てまわっていると言ったじゃないか」
「そうだ」
「ぼくも連れていってくれないか」
「ぼくの一存で決められないが、多分無理だと思う。海は広いので、どんな危険が待ちかまえているかわからない。仲間は長い間訓練を受けている者ばかりだ。でも、どうして?」
「回遊する仲間はやつらにつかまっていることは聞いている。とても歯が立たない連中だ。もし、やつらに責任があるといっても、他の方法を考えるべきだと思う。
だから、この目で見たかった。別に弱虫だからじゃないよ」
「わかっている。弱虫ならそんなこと考えないよ」
「それなら、頼んでくれないか」その若者の顔は必死だった。
ペルセウスは、若者をどうあきらめさせるたらいいのかわからなかったので、「わかった。みんなに聞いてみる。ただし、遠くへ行っている者もいるからしばらく待っていてくれないか」と言うしかなかった。
若者はうれしそうにうなずいた。ペルセウスはシーラじいさんの元に急いだ。
みんなが帰ってくると、リゲルが、シーラじいさんに連絡することになっていた。そこで、今日のことを報告するのだ。ペルセウスは、若者たちとの話を報告して、一人の若者のことを相談した。
「おまえはこの任務を立派に遂行している。ただし、その若者を連れていくことはできない。
その若者なら、わしらがしようとしていることを理解してくれる。ここで、自分の考えを広めるようにと説得することじゃ」
翌日、ペルセウスは、その若者と話をした場所に向った。すぐに若者はあらわれた。
ペルセウスは、「きみの希望を話した」と声をかけ、シーラじいさんの言葉を伝えた。
若者の顔に無念の表情が浮かんだ。
「あの演説に乗せられて、無謀なことをする者ばかりになったら、ここには誰も住めなくなる。
ここを守るためには、ここを離れてはいけない。いつか会えることがあるから、それまで、がんばってほしいんだ」ペルセウスは必死で説得した。
若者はじっと考えていたが、ようやく笑顔になった。
「わかった。きみがぼくらに話してくれたように、やつらに話すよ」
ペルセウスはうなずいた。「お互いがんばろう」そう言って2人は別れた。
オリオンが様子を伺っているとき、後ろから「お兄ちゃんじゃないの!」という声がした。
振りかえると、3人の子供がオリオンを見ている。
「ああ、きみたちか!」オリオンは叫んだ。
「そうです。おぼえていますか」3人とも笑顔で答えた。
「おぼえているとも。みんな無事だったか」
クラーケンが出没したとき、「海の中の海」に避難してきた子供たちだ。そして、いつもオリオンのそばから離れなかったものだ。
「それにしても、大きくなったじゃないか」子供たちは、「海の中の海」を出てからのことを話した。
「やつらが来るかもしれないから出るように言われたが、お兄ちゃんのことが心配だったよ」
「ありがとう。幸いやつらは来なかったんだ」
「でも、どうしてここにいるの?」
オリオンは、クラーケンがいなくなったけど、どこかでみんなに迷惑をかけるかもしれないので、自分たちの経験を話すために動いているんだと言った。
「すごいじゃないか!」
「ぼくらも行きたいよ」
「大人になったらお願いするよ」
さらに別の子供たちがオリオンのまわりに集まってきた。子供たちは、おきな声でしゃべり、笑い声を上げた。
それに気づいた子供たちの親があらわれた。オリオンのことを聞き、「あのときの若者か」と叫んだ。それぞれオリオンに感謝の言葉を述べた。
オリオンは、クラーケンの行方について聞いた。
すると、自分たちが留守の間に、大きな影を見たという者がいたがと答える親がいた。