シーラじいさん見聞録

   

ペルセウスは、そのときのことを思いだしたのかもしれない。しかし、最後まで報告しなければという思いが勝った。
ペルエウスは、また話しはじめた。
「演説が終わっても、興奮がまださめやらぬという状態でした。誰一人声を出しませんでした。
いや、心では大きな声を出しているようでした。そうだったのか。これはやらなくてはならないぞ。
やがて、どこからともなくひそひそ話をする者がいたので、ぼくは、その声のほうへ近づきました。
誰かが、『今の話は本当と思うか』と小さな声で隣の者に聞くと、『そう思うが、そうでなくても自分たちを守ることは大事なことだ』と答えていました。
すると、後ろにいた者が、『まちがいないぞ。おれは、親しくなった兵士から聞いたんだ』と口を出しました。
話が進むにつれて、大勢集まってきました。ぼくは一言も漏らさないように聞きました。
それらをまとめると、演説した老人や兵士は、あの城にいた者のようです。
10年程前、巨大な者が来て、『自分たちは海の底の世界に住んでいるが、やらなければならないことができた。それで、ここを使わせてくれないか』と言ったそうです。
しかし、ぼくらが最初に行ったときにいた赤い目の王は断ったそうです。しかし、王が変わると、受けいれることが決まったのです。すぐに巨大な者のために、大きな穴を開ける突貫作業が進められたとのことです。
兵士は詳しくは言わなかったが、王の交代も、どうやら先遣隊が仕組んだようです。
また、やつらは、やつらとはニンゲンのことだと気がつきましたが、やつらは、しゃべるだけでなく、しゃべった内容を、目に見えるようにできるらしいが、海の底の世界には、やつらの言葉がわかる者がいっぱいいるとのことです。
しかも、目に見えるものが世界中から集まってくるとのことです。新聞や雑誌のことを言っているようです。
シーラじいさんのような者が他にいるとは信じられませんが、それでやつらのことを知り、やつらに対する戦略を練っているので、自分たちは、その戦略のとおりすれば、世界は守れるのだと思っているようです」
ペルセウスは落としていることはないかと考えた。
「クラーケンはどこに行ったか聞いていないか」リゲルが聞いた。
「そうでした。それの話はまったく出ませんでした。
しかし、クラーケンたちが城を離れたとき、ニンゲンが乗った潜水艦が取りかこんだので、元々城にいた者も出ました。
それまで、クラーケンから教育を受けていたので、手分けをして洗脳することにしたようです」
ペルセウスの報告が終わると、全員シーラじいさんのほうを見た。
「予想したとおりじゃ。そして、予想以上のことが起ころうとしているようじゃ」
「これからはどうすべきでしょう」リゲルは聞いた。
シーラじいさんは少し考えていたが、「もしニンゲンが乗った船を襲っているところを見ても、決して近ずくでない。船に乗っているかぎり、ニンゲンには安全じゃ。
そのうち、真に受けてニンゲンの船を攻撃しても、自分たちが傷を負うだけだということがわかるじゃろ。
おまえたちはクラーケンを探すことじゃ。これで一つの手がかりができた。山をたどっていけば、行く方向はわかる。
また、途中、自分の仲間と話すことがあれば、そんなことがいかにばかげたことかを伝えるのじゃ。
たとえわずかなことでも、そんなことをすれば、世界が憎しみだけの場になるのはまちがいない。
それでどうなるか。自分たちを苦しめるだけでないのか。ニンゲンは、さらに強力な武器を使うようになる。
そうなれば、自分たちだけでなく、家族も犠牲になるかもしれない」
シーラじいさんは、リゲルたちを待ちかまえている途方もない困難を話した。
「おまえたちは、これだけの数で、世界に広がりつつある憎悪と戦おうとしている。何事もできなくても、おまえたちの責任ではない。
もしおまえたちの中で誰か犠牲になるようなことが起きれば、撤退する命令を出すつもりじゃ。それは肝に銘じておけ」
リゲルたちはじっと聞いていた。
リゲルが、「次の星座をめざして進みます」と言った。全員、その日、その時に細心の注意を払うことを誓った。
そして、それぞれの能力に合った半径と深度を担当しながら進んだ。
山脈での集会の聴衆は、ほとんどがマグロだったように、その近辺はイルカやシャチの少ない場所だった。
それで、ペルセウスは、誰かと会うことができないか注意しながら進んだ。
向こうにゆっくり進む影がいくつか見えた。流線型の形は仲間のようだ。ペルセウスは近づいた。
「きみたちは、あの演説を聞いたのか?」と声をかけた。
全員振りむいた。5頭いたがその内の1頭が、「そうだ。それで、このあたりを警戒することになっているのだ」
「きみは聞かなかったのか?」と別の者が聞いた。
「聞いた。でも、信用できないと思って出たんだ」ペルセウスはわざと挑戦的に言った。
案の上、「どうして信用できないんだ!」と気色ばむ者がいた。

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