シーラじいさん見聞録
リゲルは、シーラじいさんにミラの行動についてすべて報告した。
そして、パパは潜水艦に、つまりニンゲンに殺されたのだとまだ思っているのかもしれない。それでああいう行動に出たのだ。
しかし、ニンゲンが攻撃しなくてよかった。もし攻撃したなら、ミラはどうなったかわからないと自分の思いもつけくわえた。
シーラじいさんは、ミラが帰ってきたとき、「あなたの気持ちはよくわかる。しかし、わしらも懸命にボスの情報を集めているのでもう少し辛抱しなさい」と諭した。
ミラはみんなに迷惑をかけたことを謝った。「早く見つけなければ、みんなに迷惑をかけると思ってつい」
みんなは、ミラに自分たちも早く見つけるようにするので心配はいらないと答えた。
ミラは、オリオンに近づき、「オリオン、もう少しできみをたいへんな目に会わすとこだった」と申しわけなさそうに言った。
「いいんだよ。きっときみはぼくに気づいてくれると思っていたんだ」とオリオンも笑顔で答えた。
リゲルは、捜索する場所を広げることにした。
リゲルとオリオンは今までよりはるか遠くを探すことにして、ペルセウスは城の監視をやめて、シリウス、ベガとともに捜索に加わることになった。
南半球にはリゲル、カノープス、シリウスなど、20近い一等星がある。リゲルとオリオンは、シーラじいさんに、それらをもう一度教えてもらった。
2人は、それで探す方向を決めて、また会うための場所を決めるようにしたのだ。
全員の心は、ミラのパパ、自分たちのボスを絶対探しだそうという気持ちでいっぱいになった。
リゲルとオリオンは、3人に、しばらく戻れないだろうが、シーラじいさんの指示に従い、情報を集めるように言った。シリウスとベガは、以前のように不安や淋しさを顔に出すこともなく、2人の話を聞いた。
そして、お互いの健闘を祈ってそれぞれの方向に向った。
オリオンは、城を越えてまっすぐに南東の方向に向った。誰から話を聞くことができなくとも、何か異変が起きていないかは感じることはできる。休むことなく動きまわった。
しかし、ときおり行きかう者に話しかけることができても、ボスの行方の手がかりは得られなかった。
それで、なるべく広い範囲を調べるためにひとところに留まることはしないようにしていたが、ある日海面に出てあたりの様子を見た。
海も空も真っ青だった。何もかもが果てしないように思えた。青空に浮ぶ白い雲も、その終わりのない果てしなさに向かっていくように広がっていた。
自分が、あるいは自分がしていることがどんどん小さくなっていくようだった。
そのとき、どこからか声が聞こえてきたように思った。ときおり吹く風が運んできたのだろうか。
オリオンはまわりを見た。すると、遠くで大勢滑るように泳いでいるのが見えた。あれはぼくらの仲間だろうか。
目で追っていると、先頭を走る者が一人大きくそれた。そして、それに続いて、2、3の者が同じようにそれた。それから、それぞれが大きく旋回してから集団に戻った。
笑い声も聞こえてきた。楽しそうだ。家族なのだろうか。
大きな体の者が、最初にそれた者に近づいて、何か言っている。ママだろうか。
「あなた、お兄ちゃんでしょ。弟や妹が真似をするじゃない」と叱っているのかもしれない。
オリオンは、その集団が見えなくなるまで見ていた。そして、自分の家族のことを久しぶりに思いだした。
いつかまた家族の元に戻れるだろうか。しかし、離れてからもう長いこと立っている。
弟や妹はみんな大きくなって、僕のことを忘れているにちがいない。そう思うと涙が出てきて真っ青な海や空が滲んだ。
しばらくそのままでいたが、やがて一陣の風が起きて、波が立った。すると、大きくなったまま両目に留まっていた涙がぽつん、ぽつんと落ちた。
真っ青な空と海がまたくっきりと見えた。
そして、今はミラのためにがんばろう。自分のことはそれからだと自分に言いきかせた。
あの家族が向った方向に行こう。そうすれば、ぼくらの仲間と会えるかもしれない。
オリオンは、一気に速度を上げた。
一日近く進むと、ときおり空気を叩くようなヘリコプターの音が聞こえはじめた。
体に緊張が走った。ひょっとして、またニンゲンとやつらの戦いがはじまっているのかと思ったのだ。
しかし、深く潜ってからそちらに向ったが、血なまぐさい気配はなかった。
海面に上がると、オリオンの仲間らしきものが泳いでいるのが見えた。
これなら、話を聞くことができるかもしれないと思って、そちらに向った。
やがて一人でいる者を見つけた。オリオンは近づいた。
すると、相手はオリオンに気づいて声をかけてきた。「一人なの?」オリオンとおなじぐらいの少年だった。
「一人なの?」
「そうなんだ。お兄ちゃんと喧嘩してしまって」
「早く帰らないと、パパやママが心配するよ」
「そうなんだけど」
「特にあんなことが起きたからね」
「あんなこと?」
「知らなかったの?」
「知らない。何が起きたの?」
「どこからか来た大きな者がこのあたりで死んだのだ」