シーラじいさん見聞録

   

「これからどうしたらいいのでしょう?」ベテルが聞いたとたん、あっと叫んだ。
「どうしたんだ?」オリオンは、まだ何かあるのかと思った。
「隊長に、シーラじいさんに連絡をするとすぐに帰ってこいと言われていたのを忘れていた。
しばらく見回り人も門番をすることになったんだ。じゃあ失礼」
ベテルは、そう言うとあわてて帰っていった。
「ボスは大丈夫でしょうか」オリオンは、シーラじいさんに聞いた。
「ボスの仲間は、どんな大きなイカにも負けたことはないと聞いておる。しばらく休めば、また戻ってくるじゃろ」
そのとき、また誰かがやってきた。改革委員会のリーダーだ。
「若い見回り人からお聞きだと思いますが、ボスが襲われたようです」
「大体聞いた。その後ボスの様子はどうだ?」
「今ボスの指示通りの厳戒態勢を進めています。準備がすめば、見舞いにいくようになっています。
その前に、長老たちが、シーラじいさんの考えを聞こうと決めたので、お話をしてもらえないかお願いにきました」
シーラじいさんは承諾して、オリオンを伴って、改革委員会の部屋に向った。
すでに大勢の長老や見回り人などが集っていた。みんな緊張した顔つきをしていた。
シーラじいさんを見ると、長老の1人が、「今回のことは、ボスを『海の中の海』のボスということを知っての襲撃だったのだろうか」と、
挨拶もそこそこに聞いてきた。
「よくわからないが、もしそうなら、ベテルギウスが、あの行方不明になっている訓練生のことじゃが、あれから何か情報を得ているかもしれんな。
しかし、なぜそういうことをするのかわからん」シーラじいさんは、みんなを見回しながら言った。
たずねた長老はうなずいたが、まだ疑問が残っているような表情だった。
「しかし、どんな巨大なイカでも、天敵のボスをわざわざ襲うのは何かあるかもしれんな。
しかも、わしらが見たことのないような者もいるということじゃ」
すると、別の長老が言葉を挟んだ。
「ボスが警戒を強めろという指示を出したので、見回り人も門番に回すことにしようと考えている。
そこで、お聞きしたいのは、当分見回りを中止したほうがいいかということだ」
「まず、諸君の考えを聞きたい」シーラじいさんは、みんなの考えを知りたかった。
そして議論が始まった。
さらに別の長老が、まず自分の考えを話しはじめた。
「もしやつらがここに攻めてきたら、今までわれらがやってきたこと、あるいは今後やっていこうとしていることが元も子もなくなる。
だから、しばらく中止をして、厳戒態勢を取ったほうが思うが」
見回り人の幹部が反対意見を述べた。
「われらが見回りをしている場所は広い。長年紛争当事者を説得して、ようやく仲裁の場に出すようになった事例も多い。
そんなときに自分たちの都合で休んでいいのか」
「しかし、われらが襲われたらどうするのだ?」別の見回り人が反駁した。
そのように議論は進んでいったが、ある長老の言葉が、協議に参加している者全員を納得させた。
「われわれは、家や故郷を離れて、なぜここにいるのか。それを考えるべきだ。
『海の中の海』を襲うのがやつらの意図であるなら、それはなぜか。
世界に混乱をもたらすためにちがいない。何もしないならば、争いがさらに増えるであろう。そうなれば、やつらの思う壺であると思うが」
参加者が胸びれで同意の波を送った。シーラじいさんは、波がおさまるのを待って、みんなに話しかけた。
「どんなことがあっても、自分たちに与えられたことを続けようとする意思を尊重する。わしもできるかぎり協力する」
そして、危機にどのように立ちむかうかを話した。
「海の中の海」を戦場にするのはどうしても避けねばならぬが、敵が侵入したときは絶対にあわてるな。
やつらのことを聞くと、別の種類の者が連携しているようだ。
これは、「海の中の海」と同じように大きな組織があると考えねばならぬ。
最初に攻撃をしかけてくるクラゲは、今まで見たことのない動きをするようだが、お前たちのほうが早いのはまちがいない。
また、クラーケン、そうじゃ、それについて話しておかねば。そういって、想像という頭の働きについても説明をした。
ニンゲンは、海の中を知らない。知りたい気持ちがそういうものを作った。
その気持ちはとても大事なことじゃ。それについてはまた話すことがあろう。
とにかく、どんなに大きくても、それも心配ない。おまえたちの動きについてこられまい。問題は、おまえたちより数倍も大きいといわれているサメじゃ。
1人でこれに立ち向かうことはできない。あっという間に引きさかれるにちがいない。
そいつが入ってきたら数人で立ちむかえ。そして、1人が逃げろ。そうすると、やつは追いかけるじゃろ。
そして、狭い岩場に逃げこんで、やつの動きを止めろ。それは、どこでも応用がきく。今後はその訓練をしておけ」
その後は、見回り人や改革委員会のメンバーで協議を進めた。
まず、仲裁の段階にある争いを優先する。そこを担当している見回り人は情報収集をする。
もし不穏な情報があれば、改革委員会に正確に伝えて、改革委員会は迅速に分析をする。
仲裁をかかえていない見回り人は門番にまわる。
そして、門の外では、ウミヘビが、岩の間に潜んで警戒することが決まった。
他の者なら、目立つこともあるし、呼吸をするためにそこを離れなければならないからだ。

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