ピノールの一生
「ピノールの一生」(1)
ゼペールじいさんは大きなためいきをつきました。最近、知らぬうちにそうすることが増えていました。そして、その次は必ず独り言を言います。
「平均寿命が130を超す時代なのに、たかが100ぐらいでへこたれるのは情けないことじゃ。やはり人間は、最後には気持ちのもちようだとわかるわい」元科学者らしい分析でした。
「女房が死んで10年立つのに、寂しさはますます募る。そうか!来年はいよいよ30世紀になるので、『一緒に30世紀を迎えたいものですね』と言っていた女房を思いだすためだな。
それにしても、地球は毎年寂しくなる。余裕がある者は地球を離れていくし、そうでない者でも北極圏に移住するようになった。
北緯30付近でじっとしているのはわしらのようなとしよりだけじゃ。
それはそうじゃ、温暖化で陸も海も干しあがったからな。これで、新しい太陽エネルギーが発明されなかったら、人類は絶滅まちがいない。
グリーンランドに移住した息子と娘は、それぞれそちらで結婚したが、ときおり顔を見せに帰ってこいと連絡しても、どちらの孫も、おじいちゃんの家は暑くて外に出られないからつまらないと言って、まったく帰ろうとしない。
ああ、人間とは何か。科学とは何かを若いときからもっと考えておくべきだったな。
科学のためにがんばろう、科学さえ進めばすべて解決するのだと思い、研究に没頭する人生じゃった。しかし、老いさらばえた者が今さら何を言っても手遅れじゃ」
そのとき、誰かが自分を見ているような気がしました。そちらに目をやると、ばらばらに分解されたロボットの部品が山積みにされている物置の方からでした。
目を凝らすと、部品の山から転げおちたロボットの顔がおじいさんを見あげているようです。
「頭脳回路はすべて抜いてあるのにどうしたことか。まるで生きているようにわしを見ておる」
ゼペールじいさんは、そのロボットの頭を山の上に戻し、顔を反対にしました。
「確かにロボットがいなくてはどうすることもできない。大昔は、産業用とか介護用とかに分かれていたそうじゃが、この数百年は、人間に近いロボットが作られるようになり、一見して人間かロボットかわからないようになった。わしも、それには、わしも少しは貢献したじゃろ。
そういうことでは、ここに眠っているのはかわいそうなロボットたちじゃ。頭脳は劣っていないのに、流行遅れだとしてお払い箱になったのだから。
そうか!わしも、最新の技術についていけないためにお祓い箱になったのじゃった。
まだ自信があると言ったが聞いてもらえなかった。
ここにいるロボットもそう思っている者がいるじゃろな。置く場所に困ったから仕方がなかったが、ばらばらにして申しわけなかった。
せめて、元の姿に戻してやろうか。今はわし一人じゃから、5人でも、6人でも大丈夫じゃ。
ゼペールじいさんはそう言って立ちあがりました。そして、もう一度物置に言って、山から部品を選んで、分類しました。
1年後、新しい部品を買うことなしに、寄せ集めの部品でロボットができました。
一見してロボットとわかるどころか、大きさも色もちがうロボットが5体できました。
「まあ、どこか行くことはないからこれでいいか。本人がいやだと言えば、また部品に戻してやればいいのだから」そう考えて、すぐに行きかえりそうなロボットをピノールと名づけました。他のロボットは頭脳回路が動かないので、そのままにしておきました。
「おまえはピノールじゃ。そして、わしはゼノールじゃ」
体のあちこちのライトが点滅しました。しかし、返事がありません。「失敗したかな」と思ったとき、「はじめまして。ピノールです」という声が聞こえました。まじめそうな声です。
「どうやら成功したようじゃ」と思ったとき、そのロボットは、「ゼノールじいさんと呼んでいいですか」と言いました。
「かまわないぞ。確かにおまえのパパぐらいの年死じゃないからな」
「いや、そういうわけではありません。やさしいそうなおじいさんだなと思ったものですから」
「わしをじっと見ていたようだったから、おまえを顔にすることにした」
「ありがとうございます」
「よりによってこんな貧乏な家に来てもらって申しわけないと思っとる」
「滅相もありません。ぼくに命を与えてくださっただけでも感謝します。どんな用事でもしますから、遠慮なくお申しつけください」
「おまえも二度目の人生じゃ。ゆっくりしてくれたらいい」
「いや、どうしてもお礼をしたのです」
「そうか。それなら庭の手入れをしてくれるか。暑くて外に出られないので、草は伸び放題じゃ」
「わかりました」
ピノールは、すぐに外に出て、懸命に草を取りました。その日の終わりには見事な庭に生まれかわりました。それから、毎日、料理や掃除をしました。
ゼノールじいさんが風邪をひいたときは、休むことなく看病もしました。
ゼノールじいさんは、ためいきをつくことがなくなりました。
「ピノールの一生」(2)
こうして、一人暮らしだったゼノールじいさんと、ゼノールじいさんがばらばらにしていていたロボットの部品を集めて作ったロボットのピノールは親子のように暮らしました。
しかも、ピノールは働き者で、ほっておくと一日中働いています。
ロボットだから、いくら働いても疲れないさと思う人がいるかもしれませんが、二人がいるのは800年先の話ですから、今とは事情がちがいます。
工場で働くロボットは人間の形をしなくてもいいのですが、人間の形にするなら、必ず「心」をつけなければならないという規則があるのです。
つまり、肉体は疲れないが、「心」は、ロボットそれぞれで、まじめに働くのもいますが、すぐにさぼるのもいるわけです。
どうしてこうなったかと言いますと、大昔ロボットに「心」を入れたので(人間の夢でした)、自分たちの考えを主張しはじめて、ロボットは奴隷ではないという「ロボット権」が認められたのです。
最初ロボットの反乱に手を焼いた人間は、「心」を抜こうとしましたが、ロボットが反発して、100年もの間、人間対ロボットの戦いが続きました。しかし、人間が譲歩して、規則ができたのです。
その結果、ロボットを買ったのはいいが、そりが合わないので、政府に助けを求める人間が出てきました。円満に解決しないと、相手はロボットですから、暴れたらとんでもないことになるからです。
だから、ゼノールじいさんは、ロボットを作る科学者でしたが、どんなロボットになるか心配でした。
しかし、床に転がったピノールの顔がじっとこちらを見ていたので、思いきって物置から引っぱりだしてきた「心」を入れました(本来、それも違法ですが)。
ピノールはやさしくて、思いやりのあるロボットでした。自分はもう再び生きかえることはないだろうと思っていたのに、ゼノールじいさんが命を吹きこんでくれたので、ゼノールじいさんには心から感謝しました。
だから、奥さんを亡くし、二人の子供は遠いグリーンランドにいるゼノールじいさんのために一生懸命働こうと思ったのです。
半年ほどして、ゼノールじいさんは、「ピノールはほんとにいい子じゃ。今のロボットにはこんな子はいない。でも、少しは休ませてやらなくっちゃ」と考えました。
そうです、未来のロボットは「心」がありますから、見たり聞いたりしたことで、「心」が
豊かになるのです(もちろん、その反対もありますが)。
「ピノールや。おまえが家に来てから、一度も外に出たことがない。それでは、何のために生まれてきたのかわからない」と言いました。
「でも、おじいさんは体が弱っています。もし何かあればたいへんです。働くことが楽しいのです。どうか気になさらないでください」と答えました。
「そこまで言ってくれるのはうれしいが、人生は長い。時にはゆっくりすることも大事じゃよ。そうじゃ、涼しくなったら、散歩に行こうじゃないか」
「わかりました。おじいさんのお供をします。もし疲れたら、ぼくがおんぶしますから」
二人は午後8時に散歩に出ました。まだ48度ありましたが、それ以上遅くいくと、あたりの景色が見えなくなりますから、ゆっくり歩きました。
「何ときれいな景色でしょう!山の向こうに見えるのが海ですね」
「そうじゃ、昔、人間は海で泳いでいたそうじゃが、今そんなことをすれば、一瞬で死んでしまう」
そんなことを話しながら歩いていたとき、細い山道から母娘が出てきました。娘のほうが、ピノールを見るとキャッという声を上げて逃げていきました。
母のほうが、「待ちなさい。何も怖いことはありませんよ」と追いかけていきました。
「あの娘はロボットじゃな。同じロボットを見て逃げるとは」ゼノールじいさんは声を落としました。
「あれだけきれいなロボットもいるのですね」ピノールは、自分を見て逃げたというショックもありましたが、同じロボットなのに人間と区別がつかないロボットもいるということにもショックを受けました。
「すまんなあ。資金がなかったので、おまえをロボット並みにできなかった」
「そんなことは気になさらないでください。生まれたことだけで十分なのですから」
ピノールはそう答えましたが、少し涙が出てきました。
「ピノールの一生」(3)
ピノールの目に浮かんだ涙に気づいたゼノールじいさんは、自分は古くさいロボットだとわかったのだなと思いました。
「すまないなあ。いつかは人並みの、いや、ロボット並みの格好にしてやるから」とピエールを慰めました。
「そんなことは気にしないでください。何度でも言いますが、ぼくはおじいさんのおかげでもう一度生まれたことに心から感謝しています。それだけでうれしいのです」ピノールは笑顔を答えました。
翌日、いつものように朝から家事をこなしたピノールは、夕方になると、「おじいさん、少し散歩に出かけてきてもいいですか」と聞きました。
「おお、いいとも。今日もよく働いてくれたからな。おまえと一緒に住むようになって、家は見違えるようになった。ありがとうよ。
でも、外は暑いぞ。そうか、おまえはロボットじゃから、それは心配なかったか。わはは」と笑顔で送りだしました。
ピノールは2時間後に帰ってきました。おじいさんは、何げなく「どこに言ってきたのじゃな」と聞きました、
「海を見ていました」
「そうか、そうか。それはよかった。海に沈む夕日は格別の美しさじゃからな。でも、今は60度を超す時もあるから、わしは行けないが、おまえは楽しんだらいい」
その後、ピエールは毎日散歩に出かけました。雨の日も行きます。ときには、4,5時間帰ってこないときもあります。
しかし、ゼノールじいさんは、「どこに行ってきたのかな」などと聞かないようにしていました。
「きっと楽しみができたのじゃろ。でも、友だちはどうかな?ピノールは今どきの格好をしたロボットじゃないから、今のロボットには疎(うと)んじられないじゃろか、わしと散歩に出かけたときのように。
しかし、何よりピノールがうれしそうなのがいい。仕事中も、鼻歌を歌っていることもあるからな」ゼノールじいさんは、そう考えてピノールを見守ることにしました。
ある日、ピノールが帰ってきたとき、いつものとちがう音がしました。元ロボット工学の研究者のゼノールじいさんは、すぐにピノールを迎えに行きました。
ピノールは、「ただいま帰りました」と挨拶して、すぐに自分の部屋に行こうとしました。「ピノール、待ちなさい!」ゼノールじいさんは初めて大きな声を出しました。
ピノールは立ちどまりました。「どうした?顔が曲がって、しかも、鼻が取れそうになっている。しかも、体も大きくへこんでいるじゃないか!」
「夕日を見ているとき、うっかりして崖から落ちました」
「今日は曇り空が広がっていて、夕日は見えなかったはずじゃ。そんなことはどうでもいい。とにかく直そう。早くしないと、バランスが崩れて動けなくなるぞ」
ゼノールじいさんは、徹夜でピノールの体をなおしました。部品を物置から探したのですが、ぴったり合う部品が少なく、さらにガラクタの集まりのようなロボットになってしまいました。
「今はこれが精一杯じゃ。外に行けば笑われるかもしれないから、しばらくの間散歩できないぞ」
「ありがとうございます。また迷惑をかけてしまいました」
「何を言っておる。おまえはわしの子供じゃ。親という者はいくら年を取っても、子供が一番大事なんじゃ」
翌日の夕方、ピノールは、「散歩に行ってきます」と言いました。「いくらロボットでも、しばらくバランスが取れるまで動かないほうがいい」と、ゼノールじいさんが言いましたが、ピノールはどうしても行きたいと言うのです。
その夜、ピノールは帰ってきませんでした。ゼノールじいさんは、「やはり、応急処置では無理だったのだ。どこかで倒れているのではないか」と思うと、居ても立ってもいられなくなりました。
それで、探しに行くことにしました。午前2時でも気温は50度近くありますが、ある程度の部品と、もし熱中症で倒れたときの医薬品をもって外に出ました。
小一時間かけて、夕日が見える頂上の広場にたどりつきました。広場はライトがついていたので、隈(くま)なく探しました。
それから、海に向かう崖に向かって、「ピノール!」と何回も叫びましたが、返事はありませんでした。
「ピノールの一生」(4)
「ピノール、ゼノールじいさんのお家に帰らなくていいの?」モイラが心配そうに聞きました。
「いいんだよ」ピノールは、モイラから目をそらしたようでしたが、すぐに答えました。
「でも、あれだけおじいさんに感謝していたじゃない。おじいさんのためにがんばるって」
「今も感謝しているよ、心から。でも、今はきみを守らなくてはならないんだ。いつかはおじいさんに事情を話すつもりだけど、必ずわかってくれる。それに、おじいさんはロボットを作る専門家だったんだ。ずっと昔だがね。今頃また新しいロボットを作っているかもしれない」
「そう。それならいいけど」
「ケイロンのやつ、おれたちが一緒にいるところを見てから頭に血が上ったようだな」ピノールは話題を変えました。
モイラはため息をつきました。「どんどんエスカレートしてきて。パパもママも、わたしたちとちがって人間だから、とてもロボットには立ちむかえないわ。
夜中にドアをノックすることもあったの。とりあえず警察を呼んだけど、今後どうなるかわからない」
「あいつはどこに住んでいるんだい?」
「今は友だちの家を転々としているようなの。人間の親がいたけど、暴力がひどくなって、どこかに逃げたと聞いたけど」
「今度会ったら、コテンパンにやっつけてやる」
「無理をしないで。ケイロンは最新のロボットだから」
「どうせおれは世間がプッと噴きだすガラクタロボットだよ」
「またそんなことを言う。そんなことを言っていないでしょ。ケイロンがわたしをあきらめてくれたら、わたしたちは楽しく暮らせるのよ。ゼノールじいさんも安心するわ」
「ごめん、ごめん。絶対にきみを守ることを一番に考えるよ。この前の仕返しを考えたりしないから」モイラはピノールにやさしく体を寄せました。
ピノールは、散歩中のモイラを一目ぼれして、もう一度会いたいと毎日その機会をうかがっていました。
しかし、同行している人間の親に見つかれば急いで連れて帰られるので、二重、三重のハードルを越えて、ようやく声をかけことができました。
モイラも、まじめなピノールともっと仲良くなりたいので一計を案じました。
ケイロンに怯えていた人間の両親に、私たちを守ってくれるロボットが見つかったと言って、家に呼ぶ承諾を得たのです。
そのままピノールは、ゼノールじいさんの家に帰らずに、モイラの家で用心棒のようなことをするようになったのです。もちろん、モイラと一緒にいられるのですから、ピノールにとってこんな楽しいことはありません。
しかも、モイラの散歩には、ピノールだけがついていくようになったので二人っきりでおしゃべりを楽しむことができました。
あるとき、ケイロンが山道にあらわれ、「このガラクタ、消え失せろ」とぶつかってきました。
ピノールも激しくぶつかりました。モイラは、「止めて!」と叫びましたが、戦いは長い間続きました。
ようやく、ケイロンが去って行きましたが、ピノールも大けがをしてしまいました。
モイラを家に送ってから、ゼノールじいさんの家に戻り、修理してもらったのです。
しかし、この間(かん)のことはどうしても話すことはできませんでした。
ケイロンのことが終われば、モイラを紹介すればいいと考えたのです。二つも三つも心配させるより、帰ってこないという一つだけのほうがいいと考えたのです。
でも、ゼノールじいさんは、「海に沈んでしまったか。今のロボットなら泳ぐこともできるが、ピノールはできない。かわいそうなことをした」と毎日泣いて暮らしました。もちろん、新しいロボットを作ろうなどは思いもしませんでした。
その頃、ピノールには大変なことが起きました。まだまだピノールの、冒険に次ぐ冒険の人生は続きます。
しかし、ムーズに出してくれという者の行列も続きます。そこで、ピノールの話はいったんストップして、そいつらを出すことにしました。
ほら、聞こえてきたでしょ、懐かしい声が。次回はこいつらです。
「ピノールの一生」(5)
午後2時、ゼノールじいさんの部屋の壁にあるランプが赤く点滅したかと思うと、ブーブーと激しく鳴りはじめました。
昼寝をしているゼノールじいさんは少し目を開けましたが、また眠ってしまいました。
この警告音は、火事を知らせるものではなく、外気温が60度を越したので、外に出るなと警告しているものだからです。
すべての家に国が設置しているのですが、ただ、それを無視して、外に出て倒れたりしても、一切救助しないという法律があります。
また、60度になりそうなときは、ヘリコプターで、「すぐに屋内に入るように」と注意しますが、ゼノールじいさんは、最近足腰が弱ってきたので、外に出ることはありません。
食べものは、国がロボットを使って運んでくれるし、その時に、安否も確認してくれるので、とりあえず生活に困ることはありません。
ただ、ピノールのことだけが心配です。今ごろどこで何をしているやらと考えると居ても立ってもいられなくなります。
「いくら暑くてもロボットだから心配ないように見えても、あいつは昔の部品でできておる。熱の排出機能は十分でないから、休むことなく動きまわっておれば熱がこもって内部が焼きつく恐れがある」
そのとき、電話が鳴りました。ボタンを押して、部屋全体が受話器になるモードにしました。警察からでした。「ゼノールさんですか」と聞いています。
「先ほど、ヘリコプターで外出禁止の警告をしているとき、誰か倒れているので、近づくとロボットでした。住所はどこだと聞くと、あなたの家でした。
ひどく傷んでいて、あちこちから煙も出ていました。機能停止状態ですが、我々は助けるわけにはいきません。
それに、調べると、あなたはこのロボットを登録されていませんから、本来は罰金がかかりますが、相当古いロボットなので、今回は調書を作らないようにしておきます」とのことだった。
「ピノール、生きておったか。そして、こんな近くに」ゼノールじいさんは、そう言って、どうするべきか考えました。
「煙が出ているということは、壊れてしまった部品もあるということだ。とにかく、歩けるようになる部品だけを探そう」と考えて、物置に行って、ガラクタのロボットからそれらを集めました。
午後4時、外気温は57度です。ゼノールじいさんは、それらをリュックに詰めて、「よし、手遅れにならないうちに出かけよう」と自分に気合を入れました。
家からその場所まで、多分3時間はかかります。それに山道ですから、もっとかかるかもしれません。
腕時計式の警報機が、「屋内に入るように」と言いつづけていますが、電動の杖を頼りに歩きつづけました。
汗まみれになりながらも、ようやく何度も探しにきた海が見える見晴らし台に着きました。ここから、海に向かって崖を下りなければなりません。
ロープを木につないで、海と反対を向いてゆっくり下りました。見晴らし台から1時間以上かかりました。
意識が薄れていかないように気をつけていると、焦げ臭いにおいがしてきました。何度もこけながら、そのにおいのほうに進みました。
浜辺の横の木の下に何かいます。ピノールです。ゼノールじいさんは、「ピノール!」と声をかけました。
ピノールは少し目を開けて、「ゼノールじいさん、申しわけありません。ぼくは・・・」と小さな声で答えました。
「待て。耳からも煙が出ている。知能装置がやられているかもしれない。まずそこを直す」ゼノールじいさんは、ピノールの話を止めて、ドライバーでピノールの頭部を開けました。そして、部品を外しては新たな部品と変えました。
日が陰る前に、ようやく応急処置が終わりました。
「ピノール、目を覚ませ」ゼノールじいさんは声をかけました。すると、ピノールは大きく目を開けて、立ち上がりました。
「無理をするな。記憶装置は緊急用だから容量が少ない。わしが言うように動けば家までは帰れる」
しかし、ピノールは、もう歩けなくなっているゼノールじいさんを抱えて崖を登り、そのまま家に帰りました。
ゼノールじいさんは、数日の間ピノールの修復をしました。もちろん中古の部品でしたが、何とか元通りになりました。
そして、今までのことを謝り、散歩で出会ったロボットのモイラと愛しあっていること。ケイロンというロボットがモイラを奪おうとしていること。さらにケイロンが仲間を連れてモイラの家に来るので、モイラの、人間の両親がモイラを助けてほしいと頼むので、二人で逃げたことなどを話しました。
「半年ほど逃げたのですが、それでも見つかったので、あの浜辺でケイロンと決闘しました。ぼくもつぶれましたが、ケイロンを完全に破壊しました。仲間が連れてかえりましたが」ゼノールじいさんは事の次第がわかってほっとしました。
「これからは、ここにいておじいさんのお世話をします」と言ったとき、また電話が鳴りました。