シーラじいさん見聞録
ボスを見送った後、また沈黙が続いた。これはもちろん自分の考えを出すのになれていない沈黙ではなく、考えを出しつくしたあとの沈黙であった。
そこには、論敵を許さないといった冷ややかな雰囲気はなかった。なんとかみんなでこの危機を乗りこえなくてはいう思いは誰の胸にもあったのだ。
それほど、とてつもなく大きなものが押しよせてきている危機感を感じていたからであろう。
リーダーは、「みなさんの考えはわかりました。お分かりのとおり、意見は、大きく分けて二つあるようです。
いつも以上に仲裁活動を続けるべきだという意見と、当分様子を見るべきだという意見です。
ボスは、どちらの意見でも、わたしたちが決めたほうに従うということです」
広場にいた者全員がうなずいた。
リーダーは、それを確認したあと、もう一度切りだした。
「ここで、少しお時間をいただきたいのですが」
リーダーは、広場を見渡し、誰からも反対がないのを見ると一気に話しはじめた。
「わたしたちは、シーラじいさんに教えていただいているように、科学的な根拠に基づく行動を取らなければなりません。
争いが増えていることは明白でありますが、それがどのような理由からなのか、はたまた、今後増えていくのかどうかの調査が充分とはいえません。
そこで、急いで結論を申しますが、全員で情報を集めて、改めてどちらにするか決定をしようと思うのですが、どうでしょうか?」
賛同の波が起きた。
「ありがとうございます。それでは、見回り人にだけでなく、仲裁人も含めて、全員で情報を集めるようにします。訓練生もその任に当たらせます」
さらに大きな賛同の波が起きた。
明日から全員で情報を集めること決まり、集会は終った。集っていた者は広場から引きあげた。
オリオンとシーラじいさんは最後までいた。そのとき、リゲルが近づいてきた。
「オリオン、よくがんばったぞ」と声をかけてきた。
「リゲル、みんな怒っていなかったか」
「そんなことはない。そういう考えもあるのかと驚いた者はあるだろうが」
オリオンは、ほっとしたようにほほえんだ。
「ボスも、きみに自分の意見を言うようにといったじゃないか。きみはそれをみんなの前で堂々とやってのけたんだ。自信を持っていいぞ。明日から、きみも忙しくなるのだから」リゲルは、オリオンを励ました。
あの飛行機事故の現場での戦いで、2人はお互いを尊敬しあうようになっていたが、見回り人と訓練生という立場のちがいがあるので、誰かがいるところでは、積極的に声をかけることを控えていたが、今こそオリオンに声をかけるときだとリゲルは考えて、オリオンのそばにきたのだ。
オリオンは、リゲルを心から感謝した。
翌朝早く、全員広場に集った。そして、区域が割りあてられた。
「海の中の海」を中心に、担当区域は同心円を描くように決められた。そして、それぞれに担当を決めるのだ。
もちろん見回り人が一番遠くを担当して、その内側を仲裁人などが担当することになった。
訓練生は一番近くの円だ。危険な目に会っても、なるべく早く帰ることができるからだ。
情報は改革委員会に集められるようになった。そこで、書記が場所や状況を分類したあと、改革委員会のメンバーとシーラじいさんが最終的な状況判断を下すのだ。
見回り人や仲裁人、情報の分類担当以外の書記は、それぞれ自分のた担当区域をめざして出かけていった。
そのあと、オリオンたち訓練生は、オリオンの上官をはじめ幹部が担当区域を説明した。
訓練生が、「海の中の海」に近い場所が割りあてられるのは、危険を感じたらすぐに帰ってこられるだけでなく、「海の中の海」の近くには、見回りをしていた者が大勢いたので、すぐに助けを求めることができるからだ。
オリオンは、ケンタウルス座に向かって1時間ほど行くと小さな島があるが、そこを中心に情報を集めることになった。
ケンタウルス座の方向はすぐにわかった。上官の友人がいる方向だ。
上官や幹部の注意を聞きながら、緊張をしてくるのがわかった。
そして、訓練生一人一人が、第一門、第二門の門番に励まされながら、外の海に出た。
オリオンは、決められた道を出ると、一気に島をめざした。
360度だけでなく、上や下にも注意を払うことを忘れるな。上官や幹部は、この任務の重要さを説明したあと、そう指導した。
オリオンは、誰かいると思ってすぐに近づくと相手はすぐに逃げた。
深追いも禁じられていた。無用の争いに発展することがあるからだ。
訓練生の情報は、幹部に報告するようになっていた。緊急時なので、些細な情報は取りのぞくためだった。
オリオンは、どんな情報も集めることができなかった。ある日訓練所に戻るとリゲルが待っていた。