シーラじいさん見聞録

   

オリオンもジャンプしてみると、はるか遠くに何かがあちこちにいるのが見えた。かなり大きいようだ。上官と同じ仲間なのか。
上官を見ると、すでに波に消えていた。オリオンもあわてて向った。
しばらくすると、「おーい、会いたがっていた者をつれてきたぞ」という声が聞こえた。
しばらくすると、「やあ、久しぶりじゃないか」と相手が近づいてきていた。
あの声の調子は上官と同じシャチにちがいない。
オリオンが追いつくと、他の者も集ってきていた。やはり大きい。一回り小さいのは子供のようだ。顔もあどけなかった。
上官は、オリオンのほうに顔を向けた。
一番大きいシャチが、「きみか。会いたかったよ」と叫んだ。
オリオンは、どぎまぎして、「こんにちは」と挨拶をした。
「こんにちは。きみは、今やこのあたりで一番有名になっているぜ。おれの子供たちも、いつも君のことを話しているんだ」と興奮した声で言った。
それを聞いて、4,5頭いた子供たちもぱっと目を耀かせた。
どよめきが起きた。どこからかまだ集ってきた。
「きみは、多くのニンゲンを助けたのだろう」上官の友だちは聞いた。
オリオンは、何十頭というシャチに取りかこまれたので緊張した声で答えた。
「いや、みんなで助けたのです。ぼくが、ただニンゲンを引っぱるように言われただけです」
「いやあ、あんななことができるのは、きみしかいないよ。よくとっさにできたね」
「シーラじいさんが考えたことです」
「シーラじいさんって、いつもは岩の奥でじっと考えているんだろう?」
「はい、何でも知っています。ニンゲンの言葉もわかります」
「そいつはすごいぜ。おれも、もう一度『海の中の海』に戻りたいよ。そんな者がいてくれれば、どんな敵も恐くない」
オリオンが怪訝な顔をしていると、「こいつは、おれと同期なんだ」と上官が言葉を挟んだ。
「そうでしたか」
「こいつはおれより優秀だったんだ」
「いやいや、そんなことはない。体をこわしたのでみんなに迷惑をかけると思い、あそこを出ることにしたんだ。単なる弱虫さ」と笑った。
「最近何か変わったことはないかい?」上官は話題を変えた。
「この子に会いたいのはおれたちだけじゃなくて、ニンゲンもそうだということを知っていたかい?」
「えっ」上官は驚いた。
「そうなんだ。おれたちは、ニンゲンが乗っているものに近づかないが、きみたちは、あれが起す波と遊ぶんだろ?」と、オリオンを見た。
オリオンがうなずくと話を続けた。
「子供たちが、ニンゲンと遊ぶ友だちから聞いたところでは、どうもこの子を探しているようだ。言葉がわからないが、背びれについて話しているようだ」
オリオンは不安そうな表情をした。
「助けたニンゲンが、おまえのことを話したのじゃないかな」上官は慰めた。
そして、「今もそうなのか」と友だちに聞いた。
「今はもっとニンゲンが押しよせているようだ。そうだなあ、おまえたち?」とその友だちは、自分の子供やその仲間に聞いた。
「そうだよ、パパ。みんなそこで遊んでいるよ。でも、ぼくたちは、そういうことをしてはいけないと言われているから、遠くからみているだけだけど」
子供は、ようやく話すことが許されたので早口で言った。
「おれたちも早く泳げるが、こんなに体が大きいのでたくさん食べなければならないだろう?遊ぶ時間があったら、食べ物を取る訓練をしなければならないからな」
友だちは言い訳するかのように言った。
そして、「この子がいたら、それもいいだろうが」とつけくわえた。
「いや、今実地訓練を終えたところなので、今日は帰らなければならないんだ」
「えっ」という声が子供たちから上がった。
「この子は、もうすぐ一人で見回りをするようになるから、時間をあれば来さすよ」上官は、子供たちを見渡して言った。
「ぼくたちも、見回り人になりたい」一人が言った。
「いつでも来たらいいよ。でも、パパやママとしばらく会えなくなるから、よく考えるんだ」
上官がそう言ったとき、「あなたたち、パパやママが心配するから、早く帰りなさい」という声が聞こえた。
「ああ、奥さん」上官は笑顔を見せた。友だちの妻のようだ。その後ろに誰かがいた。
「おじょうちゃんも大きくなったねえ」
オリオンがその子を見ると恥ずかしそうに顔を伏せた。
「今日は、この子を連れてきましてね」
「ああ」と奥さんは、オリオンを見ると顔をほころばせた。
「どこへ行ってもあなたのうわさをしていますよ。こんにちは」
オリオンも丁寧に挨拶した。
「でも、もう帰らなくちゃならないそうだ」友だちは、自分の妻に言った。
「そうなんですか。また遊びに来てください」
「そうだ。おまえから頼まれていたものがある」友だちは、子供に持ってくるように言った。
子供はどこかにあわてて行くと、何かくわえて戻ってきた。新聞や雑誌のようだ。
「さっき言ったようにニンゲンがたくさん来るから、最近は海にたくさん落ちている」
2人は、それを受けとると、みんなに見送られて帰路についた。

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