シーラじいさん見聞録

大勢の兵隊が、雪崩のように海底にぶつかったとき、シーラじいさんがいる穴にも、波が伝わった。
シーラじいさんは、その波が静まっていくのを待った。
「兵隊たちは、リゲルたちをおいかけはじめたようじゃ。そろそろ行こうか」
ペリセウスと仲間は、「仲間の無念を晴らすときが来たぞ」、「今後こそボスの息の根を止めてやる」、「パパも喜ぶぞ」と自分の思いを口にした。
それを聞いていたシーラじいさんは、「おまえたちの気持ちわかるが、早まったことをすると収拾がつかなくなって、兵隊たちが暴れだすようになる。
そうなると、また同じことが繰りかえされる。そのことを絶対忘れるな」と次の作戦の前に釘を刺した。
ペリセウスたちはうなずいた。
「それでは、分担して、兵隊たちが固まっているところを探せ。そこにボスがいるはずじゃ。
ボスの居所を見つけたら、すぐにわしに知らせよ。リゲルたちに合図をすると、すぐに駆けつける手筈じゃ。
軍隊が戻る前に作戦を終えなければならないが、けっしてあわてずに任務を遂行することじゃ」
ペリセウスたちは、緊迫した状況に緊張したが、いよいよ自分たちの出番が来たことに胸を震わせた。
シーラじいさんは、上方にある穴で待つことにした。
警戒が増強されているだろうから、ペリセウスたちは、みつからないようにしながら偵察行動をはじめた。
ペリセウスは、動く影が見えたので、そっと近づくと、連れてきた者を使って穴を掘る作業をしているのだった。この状況になっても作業は続けられているようだ。

リゲルたちは、別々の方向に兵隊をさそいだした。後ろからついてくる軍団との距離もうまく計れるようになった。
離れすぎると、相手はあきらめてしまうかもしれないし、あまり差を縮めるとこちらが危なくなるのだ。
軍隊の指揮を取る者も、リゲルたちが一人であることを甘く見ているようだ。しかも、泳ぎつづけることには自信を持っているので、どこまでもついてくる。
リゲルたちは、離れているが、「コール」という高い音を出して、お互い話をすることができる。
「オリオン、大丈夫か」ベテルギウスは、オリオンに呼びかけた。
「大丈夫だ」オリオンも答えた。
「さっきはあせったぜ」
「どうしたんだ？」
「一気に浮かびあがろうとしたとき、落ちてくる兵隊にぶつかった。それで、一度海底にたたきつけられたよ」
「大丈夫だったかい？」
「ぶつかったのは一匹だったから、すぐに逃げられた」
「ぼくも、兵隊の間をくぐりぬけなければならなかったので恐かった」
「おれも、こんな訓練は受けてないからなあ。そっちはどう？」
「やつら、かなり疲れているようだ」
「あまり離すなよ。まだシーラじいさんから合図がきていないから」
「了解」
「おい、おまえたち油断するなよ」二人の会話に、リゲルが割ってはいった。
「了解」二人は答えた。
「おっとあぶない」ベテルギウスが叫んだ。
「どうした。ベテルギウス」リゲルが聞いた。
「おれにぶつかってきた兵隊がいる。やつの腹に頭突きをしてやったよ」
「だから言っただろう」

ペリセウスは、岩のでっぱりを見つけたので、そこまで泳いでいった。岩陰に隠れると、話声が聞えてきた。男の声だ。
「さっき大勢の兵隊がどこかへ行ったようだが」
「おまえ、何も知らないのか」
「用事があって今帰ってきたばかりだ」
「どうしたんだ」
「親がどうも危ないようで、兄弟で見てきた」
「どうだった？」
「顔を見て喜んでくれたが、どうも長くないようだ」
「おまえの親には、おれも世話になったよ。
いやな、最近ボスを探しまわっている者がいるらしんだ。ちょうどボスは留守でよかったんだが、ボスがさっき帰ってきて、兵隊に、そいつらをつまえるように命令を出したんだ」
「どんなやつらだ？」
「おれも詳しくは知らないが、おれたちのようなやつと、おれたちよりはるかに大きいやつがいると聞いたが」
「おれたちが兵役についているときは、何にもすることがなくて暇をもてあましていたのになあ」
「今のボスのおじいさんがまだ元気で、おれたちをかわいがってくれたもんだ」
「そうそう、この前ボスとそこで会って、立ち話をしたよ」
「何か言っていたか？」
「『困ったことがあったら教えてくれ』と言っていた」
「恐ろしい世の中が来るといわれているからなあ」
「ボスも、おじいさんのようになってくれればおれたちも安心だ」
「おれたちも、家族を守らなければならないからなあ」
「それじゃ、また」
「今度、親の見舞に行くときは、おれに知らせてくれ。おれも行くから」
男たちは別れたようだ。ペリセウスは少し顔を出て、あたりを見わたした。
斜め上に、前に大きくせりだした岩があった。中は前からは見えないようになっているようだ。
下から見ると、大勢の兵隊らしき者がいた。

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