シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんとペリセウスたちが穴に入ると、ペリセウスは、けがをした仲間が気になって奥に向った。
しばらくして、「おい、どうした?」という叫び声が聞えた。
シーラじいさんは、すぐに駆けつけた。しかし、どこにもいないので、探しまわる岩の天井に三つの影があった。
腹の肉が見えていた者も、意識が薄れていた者も、すでに命がなくなっていたのだ。
ペリセウスは、シーラじいさんを見ると、「ああ、こんなことになってしまいました。こいつらといっしょに帰りたかったのに」と泣きながら言った。
シーラじいさんは、父と母を殺され、そして、今仲間たちを失ったペリスウスが、この試練を乗りこえるために何とかしてやらなくては考えた。

リゲルたちは、近づいてくる者を探知した。大人数ではなさそうだ。
そして、動く影が感じられるようになると、3人は、さっと上に向かい、影の後ろに回った。
4,5頭ぐらいだ。一つ一つの穴を調べている。多分偵察をしている兵隊だろう。
リゲルは、一番後ろにいた兵隊が他の者から遅れたのを見のがさなかった。
すぐにその兵士の上にかぶさるようにして、相手の動きを奪ってから岩におしつけた。
他の者は、それに気づいていないようだ。もし気づいたときは、ベテルギウスとオリオンが反撃するつもりだった。
岩に押しつけられた兵士は、「誰だ。苦しい。放せ」と声を絞った。
リゲルは聞いた。「ボスはどこにいる?」、「知らない。放せ」
リゲルは、さらに押しつけた。「言うから放してくれ」
「どこにいる?」
「今帰ってきた。おまえたちを攻める準備をしている」
「よし、帰って、おれたちは待っていると言え」
リゲルは、兵隊を放した。しかし、すぐに動けなかった。どこか痛めたようだったが、ようやくのろのろと去った。
それを見てから、リゲルは、ベテルギウスとオリオンに合図を送り、シーラじいさんがいるところに戻った。
「ボスが帰ってきて、すぐに大群をこちらに寄こす準備をしているようです」リゲルは報告した。
「よし、やってやろうじゃないか」ベテルギスは大きな声で言った。
「正面からの対決は勝ち目がない。それに、おまえたちも疲れている、長引くと命に関わる」シーラじいさんは、その場の高ぶりを静めた。
「どうしますか?」
シーラじいさんは、作戦を聞こうとしたリゲルに答えず、ペリセウスに聞いた。
「ペリセウス、ここはいったん国に帰ろうか」
「いや、帰りません。あいつらの無念を晴らします」他の二人もうなずいた。
「そうか。それじゃ、リゲルたちは分断作戦を取れ」
「分断作戦?」ベテルギウスが反応した。
「大群は一つになって攻めてくるはずじゃ。まず3人離れて、やつらを待て。そして、おまえたちを見つけたら、数を恃んで一気に襲ってくるはずじゃ。
おまえたちは、そのまま下に行け。海底近くまで行ったら、一気に上に駆けあがれ。そして、それぞれ別方向に逃げろ。
すると、やつらは動転して、おまえたち一人一人をばらばらに追いかけるようになる。
おまえたちは、やつらと距離が離れないようにせよ。急に方向を変えるなどすると、だんだん疲れてくるじゃろ。
ただし、やつらも、おまえたちぐらいの早さで泳ぐことができるから、用心は忘れるな」
「わかりました」リゲルは、シーラじいさんの意図を理解した。
「その間に、わしは、ボスがどこにいるか調べる。兵隊も少なくなっているはずじゃ」
そのとき、ベテルギウスが叫んだ。「おっ、来たぞ。すごい数だ」
オリオンは体が震えた。ペリセウスと仲間も緊張した顔で互いを見た。
リゲルはみんなの前に出た。
「よし、行くぞ。気を抜くな」
「了解」二人は答えた。
伝わってくる波で、敵がすぐ近くまで迫っているのがわかった。
上がっていくとき、リゲルは、「シーラじいさんの指示どおり、やつらを下におびきよせろ」
「了解」
大きな影が、300メートルぐらいまで迫ってきた。
「よし、離れろ」リゲルは、二人に命令した。
ベテルギウスとオリオンは、リゲルから、左右に100メートルぐらい離れた。
「相手の動きをよく見ろ」リゲルは、二人に信号を送った。
迫ってくる影が大きく広がった。どうやら3人を認めたようだ。
「さあ、行くぞ。やつらをできるだけ下まで引きずりおろせ。少しでも遅れたら、命はないぞ」
ベテルギウスとオリオンは、体が熱くなるのを感じた。
波が滝のように下りてきた。3人は、さらに下に向った。
「さあ、来たぞ、来たぞ。もう少し待て。もう少しだ」
波が体を押しつぶすようになったとき、リゲルは叫んだ。「よし、今だ」
3人は、海底近くで体を反転して、一気に斜めに飛びだした。
1000頭以上で構成されている軍隊は、3人が動いたのを見て、それに反応しようとしたが、すぐに止まることができなかった。
激しい混乱が起きた。あちこちでぶつかる音が聞えた。
止まることができた者でも、後から来る者がぶつかって、そのまま海底に激突した。
折りかさなっている兵士の白い腹があちこちで光っていた。
ようやく8割の兵隊が、態勢を立てなおして、3人を追いかけはじめた。

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