大騒ぎ(3)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(201)
「大騒ぎ」(3)
近郊近在の金持ちもやってきて、「これが空でごろごろ鳴いたり、稲光を光らせたりしては雷を落とすやつか」と珍しそうに見ていました。
「これでエサをやってくれ」と言って、料金は一文なのに、十文払う金持ちもいました。
さらに噂は広がり。都からも大勢の見物人が来ました。ちょうど近くに湯が湧く場所があったので、そこに旅籠(はたご)や土産物屋を作って、見物客を集めることにしました。
今までは都からは遠いので湯治客は少なかったのですが、今は押すな押すなの盛況です。
大勢で来ると、その中には一人や二人お調子者がいるものです。「よし。わしがさわってみよう」といっては、さらに一文を払ってかみなり太郎に触ります。すると、一瞬でひっくりかえります。
仲間は水をかけると気がつきます。「こいつはすごい」と仲間は手を叩いて大喜びです。
「突然、体がびりびりして頭が真っ白になった。後は覚えていない」と目を白黒して話すのです。
誰も今まで見たことのないものを見て、みんな大満足です。
この噂は都にいる帝(みかど)も伝わって、一度かみなり太郎を見てみたいと言ったということが知らされました。
「これはすごいぞ。雲の上にいる神様がわしらの村に来るかもしれん」と村人は大騒ぎです。
村人はもう野菜や反物を都に売りに行くこともしなくなりました。かみなり太郎を見るために、毎日大勢の人が来るのですから、それに関わる仕事をするだけで、一日二十文にはなるのでした。
かみなり太郎が村に来る、いや、落ちてくるまでは、朝から晩まで働いで一日五文が精一杯だったのです。
それで、村人はかみなり太郎の世話を一生懸命しました。食事も大人の3倍は食べました。おかげでかみなり太郎はぐんぐん大きくなりました。今では人間の大人ぐらいになりました。
見物客は以前よりは少なくなりましたが、一日10人は来るので村人は都で物を売らなくても生活できます。
しかし、ある時、それこそ雷が落ちるようなことが起きました。この村から十里ほど離れた村でも雷の子が落ちてきたというのです。
「これは商売敵ができたぞ」と村人は心配しましたが、その数日後にも、2匹の子が落ちたというのです。
「4匹になったか。今でも見物客が少なくなってきているのに、どうなることやら」自分たちの生活がかかっているのでみんな不安に思いました。それに、朝から晩まで田んぼや畑で働くことをしなくなっているので、昔のような生活をする自信がないのです。
案の定、他の村でも雷の子を見世物にしはじめました。どこも、この村のように、雷の子で儲けたいのでしょうが、何回も来る客はいないので、共倒れになりました。
しかし、かみなり太郎は相変わらず大食いです。それに、村人も触ることもできないのでずっと檻に入ったままです。いつのまにか体は牛のようになりました。
村の長老や和尚が話しあった結果、かみなり太郎を空に返すことになりました。
村人も、「残念じゃが、仕方がない。かみなり太郎にはよう儲けさせてもらった」という意見が大勢を占めました。
しかし、「上から落ちるのは簡単じゃが、あんな大きい体でどうしてあんな高い空に戻るのじゃ?」と聞く者もいました。
どうしたらいいのか分からないので、最近人間の言葉が少しわかるようになってきたかみなり太郎に聞くことにしました。
最初、かみなり太郎は驚いたり、涙を流したりしていましたが、「もう食べさすことができない」と聞いて納得したようです。
それから、ごろごろ、ごろごろと何回も言いました。
「はやり,雷が近づいてきたら、かみなり太郎に気づいた親や兄弟が助けにくるのだなとみんなと得心しました。
数日後、朝からひどい雷と稲光がしてました。村人は檻の錠を外しました。
「かみなり太郎。達者でな」多くの村人がどすんどすんと走っていくかみなり太郎を見送りました。
畑の真ん中ぐらいに行くと突然どかんという音がしたかと思うと煙が立ち上りました。やがて煙がなくなるとかみなり太郎はいませんでした。
それから、村人は一生懸命働きました。他の村がひでりなどで苦しんでも、その村はどんな年も豊作が続いたということです。他の雷の子はどうなったかはわかりません。

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