新しい国(7)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(161)
「新しい国」(7)
修理に3か月かかりましたが、ようやくハワイ北部を目指して、キネトピアは動きだしました。
当初は国民の間からはキネトピアを襲撃したものを見つけるべきだという意見もありましたが、ケンは反対しました。
それを声高に言うと、新たな敵意を生むだけだというのです。多くの都市が核兵器で破壊されたのを見て世界は大きなショックを受けているのは確かだ。しかし、世界はもう愚かな戦争はしないだろうと思うのは早計だ。
だから、敵意の芽を摘むために島を動かしている。それなのに、こちらから敵意を見せることはいけないというのでした。
「ケンの言うとおりだ。それに、島の発電装置や動力装置が破壊されているのはすでに世界が知っている。わざわざ事を荒立てる必要はない」腹心のジョンも国民に話しかけました。
ほとんどの国民は理解しました。それに、修理の間待たせていた訪問者の接待に、すべての国民が当たりましたから、それどころじゃなかったのです。
それは、キネトピアの12000人の国民にとって義務でも責任でもなく、大きな喜びでしたから、朝から晩まで働いても全く苦になりませんでした。逆にケンなどのスタッフがもっと休むようにという始末でした。
それから、半年後、島は南米大陸を回って大西洋から太平洋に入りました。
訪問者の便宜を考えて、今度は南米大陸に沿って北上しました(飛行機は断っていたので、訪問者はすべて船に乗ってキネトピアを訪問しなければならないからです)。
そして、ハワイの東を通って目的地に近づきました。
「どこに停泊するのですか?」若いベッティが聞きました。
「大体の場所でいいと世界平和機構から許可を得ているので、きみらが決めたらいいよ。もちろん国民の意見を聞いたほうがいいがね」
「すでに緊急アンケートを取っています」ベッティは笑いを殺しながら答えました。
「それは知らなかった!」
「ケンが各国の首脳との対応が忙しそうだったので、ジョンの了解を得てネットを使って集計しました」
「それで?」
「90%以上が、朝陽や夕日がすばらしいから、もうそろそろという意見でした」
「なるほど。それじゃ、いつでもいいよ」
「じゃ、そう言いますね」ベッティは、そう言うと急いで出ていきました。
翌日、島の動力装置が止められて、2時間後に島は止まりました。
ちょうど島に来ていた300人近くの訪問者はその瞬間に大声で歓声を上げました。その声は世界中に響きわたり、世界中の人々に、もう一度やりなおすためのエネルギーを与えました。
「平和は作るものである」というケンの思いが伝わったようです。
島の移動が成功したことで世界の首脳やメディアから連絡が来て、ケンは毎日寝る暇もないほどの忙しさでした。
それも、1ヵ月ほどでようやく静かになりました。ケンはジョンやベッティなど30人のスタッフを集めました。
そして、島を国民の希望どおりハワイの北に移動させたことを感謝しました。
最後に、「後のことは頼む」と言いました。
スタッフは驚き、「それはどういう意味ですか?これからも、新しい国、つまり新しい島を作らなければならないのですよ」とジョンは大きな声で言いました。
ケンはうなずきながら、「世界がそう望むなら、きみたちにお願いする。ぼくはキネトピアを離れるから」
スタッフは声を出せないほどの衝撃を受けました。
ケンは、みんなを見渡しながら、「ほんとは小さな島がほしいけど無理なようなので、救助ボートを借りて世界を回ってみる」と言いました。
スタッフは、ケンに、「ここにいてください」と哀願しました。
「申しわけない。後はきみたちに任せるよ。ぼくのことを心配してくれるのなら、今回のことは誰にも言わないでほしい」ケンはそう言うのみでした。
翌日、ケンは小さなボートで北に向かいました。
スタッフたちは泣きながらケンを見送りました。ベッティはジョンに、「ケンはどうしてこんなことをするでしょうか?」と聞きました。
ジョンは、「夕べずっと考えていたのだけど、多分人間のことをもっと知りたいのだろうと思う」と、小さくなるボートを見ながら答えました。