尻餅山の春
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(114)
「尻餅山の春」
「おい、尻餅山」という声が聞こえました。尻餅山と言われた山は、またぼくをからかうつもりだなと思いましたが、「何だい?白雲山」と隣の白雲山を見あげて答えました。
白雲山はそんなに高くはありませんが、屹立している姿は魅力的です。特に今は雪のシーズンですから、光に輝く姿は人間だけでなくまわりの山も一目置く美しさです。
ただ、それを鼻に掛けるところがあって、まわりの山が舌打ちするようなことを平気で言うのです。
また、機嫌が悪ければ、怒ったりしない尻餅山をからかって、憂さをはらうのです。
気の毒に思った友だちは、「あんなやつに返事なんかするな」と忠告するのですが、人がいいというか、山がいいというか、ぼくをからかって機嫌が直ればそれでいいやと相手をしてしまうのです。
尻餅山は、まわりの山と比べればほんとに低い山で、山を作った神様が隣の山を作っているときに、けつまずいて尻餅をついたので、今のような低い山になったと言われています。確かに、遊びに来た人間が、「これって山?」と驚くのを何回も聞いていますが、地図にはちゃんと山と書かれています。
「尻餅山。これだけ雪が積っていると、雪が融けたら、もっと低くなっているのとちがうか」白雪山はやはり機嫌が悪いようです。
「そんなことはないよ。確かに記憶にないほどの雪だが、体のどこも痛くないもの」
「春になったらわかるさ。おい、黒沢岳」と今度は標的を変えました。
黒沢岳は白雲山より高くて堂々とした山ですので、「百名山」に選ばれています。白雲山は、それが気に入らなくて、さざと挑発するのです。「調子に乗って人間を困らすんじゃないぞ」
しかし、黒沢岳は何も言いません。無意味な喧嘩はしたくないのでしょう。
その3000年後、地震がありました。「みんな無事か」山は声を掛けあいましたが、白雲山、黒沢岳などの山はほとんどが崩れてしまいました。あたりの山は、みんな尻餅山と変わらないほどの高さになってしまいました。調査に来る人間がいなくなると、誰も来ません。みんな悔しくて、毎日泣いて暮らしました。
10年ほどすると、また地震が起きました。今度は、尻餅山などの低い山があたりで一番
高い山になりました。
同じように大きくなった友だちが、「白雲山をからかったらどうだ?」とけしかけました。
尻餅山は、「いやいや。いつ何が起きるかわからない。それに、しょんぼりしている山をからかうことはできないよ」と言いました。
10000年後、また地震が起きました。地殻変動を伴う大きな地震です。その結果、あたりの平地が盛りあがり、見たこともないような山脈ができました。
そのために、太陽の光が届きにくくなり、なかなか春になりません。白雲山やさすがの黒沢岳も、不満を言うようになりました(白雲山はもう誰もからかうようなことは言いませんが)。
尻餅山は、「何が起きるかわからないのだから、今を楽しもうよ」みんなに声をかけました。
その一帯は、8月ごろまで春が続き、そして、すぐに秋になるので、暑さに耐えきれなくなった人間は楽しく暮らしているということです。