ピノールの一生(16)
2017/06/15
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(126)
「ピノールの一生」(16)
ザッブーン、ザッブーン。ピノールと相棒のロボットは豪華客船のデッキから空に飛び出したときに、海に落ちました。
どちらも200キロ以上の体重があるので、そのまま海に突っ込んでいきました。
最初は無我夢中だったのですが、ブクブク沈んでいる間に、お互い相手のことが気になりました。
海の中はまだ明るかったのですが、すぐに目を夜間モードに切り替えたので、しばらくはお互いがどこにいるかわかりました。
それで、お互いのほうに近づこうとしましたが、うまくいきません。仕方がないので、ピノールは、ライトで海の様子を見ることにしました。
たくさんの魚が、何ごとが起きたのか、そして、こいつは何者だというように近くまで寄ってきますが。どうも食べものではないようだとわかると、体をクルッと回してどこかへ行ってしまいました。
相棒のライトはまだかろうじてわかりました。このままで、どこまで沈んでいくのかわからない。大きな海は何千メートルもの深さがあると聞いたことがある。そこまで落ちてしまっては、助かることはできません。
ゼペールじいさんが教えてくれたように、落ちついて自分を取りもどすんだ。そうすれば、かならず何かできる。ピノールは、落ちながら、そう自分に言い聞かせました。
ライトを最長モードにして下を見ました。すると、右の下の方が他より黒くなっているように思いました。山か何かだろうか。
手足をばたつかせてそちらに向かいました。それから、相棒のほうにライトを向けて、自分の行動を知らせました。
どちらに向かうか分かれば、相棒なら噴射装置があるので来ることができるかもしれないからです。
その黒いものまで、相当深さがあったので、慌てることなく、その真上に着きました。そして、そのまま下に落ちて行きました。ガーンとぶつかって体が止りました。
すぐに寝転んでライトを上に向けました。相棒のための目印です。しばらくして、相棒も到着しました。
「助かった。もう会えないのかと思ったよ」
「ぼくもだ。ここに山があってよかった」
「これからどうしょうか?」
「いっしょに考えたら何とかなるはずだ」
2人は、電力を節約するためにライトを消して次のことを考えていました。
そのとき、「どうしたんだい?」という声が聞こえました。2人は慌ててライトをつけて、そちらを照らしました。
「何、このばかでかいものは?」相棒が叫びました。
確かに今まで見たことのないような大きなものが近くにいます。
「船から落ちてしまったんだ。でも、きみは大きいなあ」とピノールが言いました。
「ぼくが大きいだって!パパやママはぼくの何倍もあるよ。それに、友だちからはチビ、チビとからかわれているんだ」と楽しそうに言いました。
「ひょっとしてきみはクジラか!」ピノールが聞きました。
「まあ、そんなところだ。それより、きみたちはずっとここにいても大丈夫か?」
「呼吸のことを心配してくれているのなら大丈夫だ。ぼくらはロボットだから。でも、早く帰りたい」
「ロボットか。そういえば、きみらと同じロボットの女の子を海の中で話したことがある」
「ほんとか!」
「ずっと向こうだけどね。『パパに言って助けてやろうか』と言ったんだが、『淋しくて海に飛びこんだの。だから、ほっておいてちょうだい』と答えるものだから、何もしなかった。ロボットって、淋しくなるもんかい」
「ああ、淋しくもなるし、夢をもつこともあるんだ」
「だから、パパを呼んできてくれないか」2人はクジラの子供に頼みました。
「OK.パパに聞いてくる」クジラの子供はすぐに姿を消しました。