ピノールの一生(15)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(125)
「ピノールの一生」(15)
ピノールの相棒となったロボットは、ベルトについている5,6個のボタンを操作しました。
しかし、何の反応もありません。しばらく繰りかえしていると、体がガタガタ震えてきました。
「これだな!」と言ったとたん、静かになりました。何度もONOFFを繰りかえていると、少し体が浮きました。
「やったぞ!飛べそうだ。それじゃ、船を探そう」2人は、スクラップ室を這いあがり、すぐに物陰に隠れました。そこから海を見渡しました。
「おお!すごいな、海は」相棒が叫びました。
「海以外何も見えない。それに空も真っ青だ」ピノールも叫びました。
「こんなところで暮らしたいものだな。あっ、ごめん。きみはそれができなかったんだな」
「いや、ゼペールじいさんが、ぼくの体を最近のロボットのようにしてやると言ってくれているんだ。そうなれば、ぼくも海を見ながら暮らせるよ」
「それはよかった。あそこを見てごらん。豆粒みたいなのが船だろうが、かなり距離があるな」
「そのようだ。あせってもしょうがない。運を天に任そう」
「でも、きみの体が心配だ」
「ありがとう。でも、ゼペールじいさんは、『あせると自分を見失う。困ったときは、ゆっくり自分と相談しなさい』って教えてくれた」
「そうしよう。きみの家があるカルロはこっちの方角だ。そっちに向かう船が近くを通るのを待とう」
「便利なものがついているんだね」
「ナビは今のロボットなら標準装備だよ。ぼくが知らないものもあるようだから、今のうちにそれを調べておくよ。いざというときに使えるかもしれないから」
日は沈み、星が出てきました。「きれいだね」、「寝っころがって見ているだけで何もいらない」
そのとき、相棒のベルトのボタンが反応しました。2人は急いで起きあがりました。
「前から船が来る。かなり大きい船だ。しかし、カルロの方向だよ。それじゃ、飛ぶよ」相棒はボタンを操作しました。
シューという音がしました。体が浮きました。「よし、ぼくの背中に乗ってくれ」ピノールが背中に乗ると、動きが止ってしましました。
何度か試みましたが、うまくいきません。相棒は、「そうか。ぼくが1メートルほど上がったときに乗ってくれないか」と頼みました。
ピノールは、大きな箱がありましたので、そこに乗って、相棒の体が同じ高さになったときに背中に飛びのりました。
今度はうまくいったようです。シューという音はゴーという音に変わって、二人はどんどん浮きあがりました。すでに、スクラップ船が小さくなってきました。
「あれは何だ!」という声が聞こえました。「気持ちいいぞ。まさかぼくが空を飛べるなんて!」相棒は有頂天です。
しかし、すぐに今の状況を悟って、「燃料を使いきってしまったらたいへんだ。まだ何が起きるかわからないものな」と言いました。
「どうするの?」
「このあたりで、出力を押さえていくよ」
2人の高度はどんどん下がりました。船が間近に見えてきました。巨大な船です。大勢の人が食事をしたり、ダンスをしたりしているのが見えます。
「すごい、すごい。富裕層という連中だな」
「ほんとに楽しそうだ」
「よし、船に下りるよ」2人はドスンとデッキに下りました。初めて飛んだのと、ピノールを背負っていてバランスを崩したのとで、2人はそのままゴロゴロと転がりました。そして、壁に当って止まりました。さいわい、誰にも気づかれませんでした。
「あはは。今度は下りる練習が必要だ」しばらく大笑いが止りませんでした。
「さあ、どこかに隠れよう」星空を見るためか、人が数人いましたので、そっとデッキを歩きました。
救命ボートが並んでいる下にノブがあるのを見つけました。ノブを回すとすっと開きました。ボートの備品が詰まっていました。「ここなら大丈夫だ。緊急のときしか用事がないだろうから」
2人はそこに隠れました。「ここなら、きみの体も安心だ」
「ありがとう」
それから、2人はここまで計画通りにいったことを喜び、それぞれ自分のことをあらためて話しました。
それから、ピノールは、「ゼペールじいさんに会ったら、まずきみの足を作ってもらうよ。それから、ぼくの体も、最新とは言えなくても、錆びない金属に変えてもらう。そうそう、きみの名前も考えてもらう」と約束しました。
「それと、大事な仕事があるんじゃないか」
「そうだ。モイラの家に行く。そして、モイラをケイロンたちから守る!」
「ぼくも手助けさせてもらうよ」
そのとき、ドアが開きました。2人はあっと叫びました。船のスタッフらしきものが、「どうされました?こんなところで」と丁寧に言いました。
「いや、気分が悪くなったので」
「別のお客さんから情報があったので心配しました。少しお話がしたいのですが」
「わかりました」
2人は外に出て歩きはじめました。シューという音がしました。「ピノール、乗るんだ!」
ピノールは相棒の背中に飛びのりました。船のスタッフが、「待て!」と叫びました。
相棒の体が浮き船を飛びこえたとき、2人は海に落ちてしましました。

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