ピノールの一生(9)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(106)
「ピノールの一生」(9)
ピノールは、体の中に潮風の塩分が入るのを防ぐために、ボンドを関節に塗っていましたが、それが固くなってきたので早く走ることができなくなってきました。
それで、海から遠い場所に来たのでそれを外すことにしました。
「よし、軽くなったぞ」ピノールは、道に沿った林の中をどんどん登っていきました。
道を行く車から見られたら、「不審者がいる」と通報されるのはまちがいありませんから、用心したのです。
1時間ほど進むと、道は5つに分かれていました。これではモイラが閉じこめられている家を見つけることができません。
しかも、見晴らしがいい場所なので、ここで見張っているわけにはいきません。そこで、1キロほど戻って林に入りました。そして、一番高い木に登りました。目を望遠モードに切りかえました。これなら、登ってくる車を大きな姿で見られますが、どの車ももうスピードで通りすぎるので、確信がもてません。
やがて、暗くなってきました。ピノールにとって、こうなるとお手上げです。今のロボットには暗視モードがついているそうですが、大昔のロボットであるピノールにはついていません。
高い木から下りて休むことにしました。木にもたれて休んでいると、上空2,30メートルのところを、ライトをつけながら飛んでいるものが見えます。3,40個はあるでしょう。
あれは最新のロボットです。主人を乗せて夜景を楽しんでいるのです。「さすが高級リゾートだ。金持ちしか買えないロボットがこんなにいるなんて」ピノールは感心して見上げていましたが、信号が鳴ったので、すぐに隠れました。
下に危険がないか調べている、空飛ぶロボットの信号に反応したのです。
用心しながら見張りましたが、2日間は見つけることができませんでした。
3日後の早朝、探していた青い車が下りていくのがわかりました。ピノールは、「よし、今日こそはつきとめてやる」と、車の特長を頭にインプットしました。
そして、昼すぎに戻ってきました。「あの道に入ったぞ」と叫びました。もちろん、すぐに後を追いかけるわけにはいきませんから、姿が消えるまで見ていました。
その日、暗くなってから、その道を登りました。ただし、両側には何百という別荘がありますので、すぐに見つからないことは覚悟していました。
ロボットですから、疲れることはありませんが、それでも根気よく探さないと時間が立つばかりです。
4日後、庭で話し声がする家がありました。「あれは、ロボットの声ではないか」ピノールはそっと近づきました。数人のロボットが遊んでいます。
「ケイロンの家来だ。おれを痛めつけたやつらだ」ピノールは、そこを離れて別荘の外観を調べました。
「2階に灯りがついている。あそこにモイラがいるかもしれない」ピノールは、隣の家に人がいないのを確認して、そこの塀に登り、木に屋根に上りました。
灯りがついている部屋に影が動いています。「モイラがいる!もう一人はケイロンか。ようやく見つけたぞ」
しかし、ここから大変です。監視システムが張りめぐらされているはずですから、今のようにそこに行くことはできません。
ピノールは、そこを下りて、道に出ました。そして、集音装置をオンにしました。しかし、マックスのレベルにすると、向こうの監視レベルが反応しますので、少しずつ上げました。
角度も気をつけながら、調整していくと、声がはっきり聞こえるようになりました。
ケイロンがしゃべっています。「モイラ、もうそろそろおれを愛してくれよ。おまえのために何でもするから。ここに来てからも、おまえが好きなものをプレゼントしているじゃないか」
「何もいらないわ。早くパパやママのところに帰りたい」モイラだ。
「そう言うなよ。それじゃ、明日はビーチでゆっくりしようぜ」
「明日別荘を出るぞ!そこなら助けられる」ピノールはビーチに先回りしようと別荘の反対側に行きました。