シーラじいさん見聞録

   

若いクジラたちはあたりを見回した。しかし、わからないようで、「どこですか?」とミラに聞いた。
「見えないのか。目の前にいるじゃないか」とミラはじらした。若いクジラたちはさらにきょろきょろした。リゲルたちはにやにや笑った。
「前から会っていたが、挨拶は今日が初めてだ。よろしくな」1羽のカモメが挨拶をした。
若いクジラたちは、その声はカモメから出ているのがわかったが、それが信じられないようだった。しかし、何を話しているのかわかるので、さらに混乱した。
若いクジラの1人が思いあまったように、「こちらが仲間なんですか」と聞いた。
「そうだ。大事な仲間だ。カモメがいないと、ぼくらはクラーケンと戦うことができないんだ。
クラーケンはおれから見てもでかい怪物だ。しかも、ものすごい力を持っている。まともに当たったら、とても勝ち目がない。
カモメが先に情報を知らせてくれるから、やつらの背後や横から向かっていける。それから、手紙を運んでくれるので助かる」
「手紙?」
「手紙とは遠く離れた仲間と連絡をしあうためのものだ。今敵はどこにいるとかこうしてくれとか伝えることができる」
「それなら、敵より早く動けますね」
「それはどんなものですか?」
「今はないが、いずれ仲間のカモメがもってきてくれるだろう」
「それと、自分の考えや思いも伝えることができる。きみが好きだとかね」
若いクジラは照れたように顔を見回した。
「ただ、相手も手紙を理解する能力がないとどうしようもないけどね」
「わかるのですか」
「ぼくはわからないよ。勉強が苦手だから。でもオリオンやベラは、シーラじいさんから教えてもらったからわかる」
「リゲルもわかりますよ」ペルセウスが言った。
「そうですか。勉強したんですね」ミラは感心したように言った。
「いやいや。少しだけベラから教えてもらったんだ。ここに手紙が来たときのためにと思ってね。でも、自信がないぜ」リゲルは恥ずかしそうに答えた。
「なるほど。最近カモメが低く飛ぶなあと思っていたんですよ。まさか仲間だとは気がつきませんでした」
「いや、ぼくも、カモメと言うのはどこでもぼくらの近くにいるもだと思っていたので、仲間だとはわからなかった」と言いわけした後、「みなさんも、早く言ってくださいよ」とカモメに言った。
「ごめん、ごめん。早くミラに声にかけなくてはと思っていたんだが、ここの連中を驚かしてはいけないと思って遠くから守ろうとみんなで決めたんだ。緊急事態が起こらずにすんでよかったよ」カモメは事情を話した。
「そうだ。リゲルたちががもうすぐ来ることが分かっていたので、リゲルに聞こうとね」別のカモメも応じた。
「でも、気をつけてもらいたいのはカモメが全部おれたちの仲間ということではないことです」リゲルが言った。
「クラーケンの仲間もいるんだ」ミラが捕捉した。
「ほんとうですか」
「クラーケンの命令でニンゲンに病原菌をばらまくカモメもいる」
「なぜそんなことを?」
「ニンゲンを絶滅させるためだ」
「待ってください。さっきの話ではニンゲン同士が敵味方に分かれているということでしたが」
「それもまちがいない事実だし、クラーケンがすべてのニンゲンを敵に思っていることも事実なんだ」
若いクジラたちはよくわからないようだった。「また、クラーケンはニンゲンではないきみたちも襲うだろう?」
「そうか。自分たち以外は敵なのか」
「悲しいかな、そうだ」
「それで、ニンゲンはニンゲン全体が絶滅するかもしれないようなこともするですね」
「そうだ。おれたちを巻添えを食うかもしれないのにな」
その時、空を見上げていたペルセウスが、「来たぞ、来たぞ、手紙が!」と叫んだ。
みんな空を見上げた、確かにはるか向こうの空に数個の黒い粒のようなものが動いている。
「見えた!ペルセウスは目がいい」シリウスが叫んだ。「口に何かくわえている」
やがて、黒い粒はどんどん大きくなってきたかと思うと、バタバタと風を起こしながら降りてきた。
そして、「みんな揃っているじゃないか。ようやく再会できたんだな。ミラ、元気だったか」長い旅を終えたカモメも、ほっとしたのか上機嫌だった。

「心配かけましたね。元気です。シーラじいさんはどうですか」
「元気だ。それに、ミラは必ず帰ってくると言っていたから早く伝えてやるよ」
「ありがとうございます」
「手紙を預かってきたんだな」仲間のカモメが聞いた。
「そうだ。アントニスからよく手紙が来るので、それをまとめたやつだ」
「みんなで世界平和について議論していたんだ」
「そりゃすごいじゃないか、それなら、この手紙が役に立つぞ」
ここにいるカモメが、それを若いクジラたちに、「これが手紙だ」と見せた。
「薄いものですね」
「それで分かるのですか」
「分かる。さっき言ったとおり分かる者にはわかる」
「声が来るものと思っていました」
「それはない。ニンゲンはそうするものをもっているようだが」
「この絵はニンゲンが話す言葉を表したものだ。リゲル、読んでくれ」カモメはリゲルに手紙を渡した。

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