シーラじいさん見聞録
オリオンが閉じこめられている檻も今にも切れそうな音がしている。
ミラが心配そうに、オリオンをみた。
「大丈夫だ。ワイヤーは切れていない」オリオンが冷静に合図を送った。
「少し見てくるよ」
「今は止めたほうがいい。あれだけの騒ぎだから、みんな殺気だっている」
そのとき、「オリオン」という声が聞こえた。ペルセウスだ。しばらくして、「ミラ!来てくれたのか」と叫んだ。
「そうだ。今何があったんだ?」
「クラーケンたちが船にぶつかっているんだ。ニンゲンが仲間を助けるためにクラーケンを撃ちはじめると、クラーケンが、それに興奮して暴れまくっているのだ。船にも体当たりするから船が揺れるのだ。それで、オリオンが心配になってもどってきたところだ」
「クラーケンは多いのか」
「どんどん増えている。死んだクラーケンが無数に浮いている」
「その下に隠れてニンゲンに飛びかかろうとする」
「だから、ヘリコプターからの攻撃もうまくいかない」
「どうも船をひっくりかえそうとしているようだ」
「船を動かさないのだろうか」ミラが聞いた。
「どうも動けなくなっているようだ。それで、ヘリコプターが船のまわりを警戒している。助けの船も集まってきている」
「オリオンは大丈夫かなあ」
「ニンゲンはオリオンを絶対連れてかえらなければならないから、まずそれを考えているだろう」
「見ろ!ヘリコプターが来た」
「ミラ、もう少し離れたほうがいい」オリオンが言った。
「そうだ。クラーケンの一味と思って攻撃してくるよ」ペルセウスも急がせた。
「わかった。何かあればすぐ来る」ミラはそう言うと、静かにそこを離れた。
ヘリコプターは、檻の真上にホバリングすると、ニンゲンが下りてきた。そして、檻にロープを2か所懸けた。
「でも、船とくっついている」誰かが言った。
それから、そのニンゲンは、ワイヤーに近づき、何か取りだした。すぐに赤い炎が見えた。「あれは何をしているのだろう?」
「多分、ワイヤーを切っているんだ」おりウオンが答えた。
しばらくするとワイヤーがだらんと下がった。そして、そのニンゲンは、ヘリコプターに合図を送ると、檻が徐々に上がりだした。
「あっ!」友だちが叫んだ。檻の下にクラーケン一味のシャチがぶらさがっている。そして、激しく檻を動かした。
やがて、檻は斜めになったと思うと、その上に乗っていたニンゲンが落ち、すぐに檻が外れて、海に落ちた。
「オリオンが!」ペルセウスたちは叫んで、そちらに向かった。しかし、その船に乗っていたニンゲンを襲うために、クラーケンが激しくうごめいているのが見えた。照明が海を照らしだし、激しい銃声が響いた。
ペルセウスたちは檻に向かった。檻はまだ浮いていた。「オリオン、大丈夫か!」ペルセウスは叫んだ。
「大丈夫だ。うまくいけば浮いているかもしれない」オリオンは言った。
最初は浮いていたが、クラーケンたちが激しく動きまわるので、檻も揺れるのだ。
そして、斜めになり、徐々に沈みだした。
「ミラを探してくるから、みんなはオリオンを見ておいてくれ」ペルセウスは、そう言って、ミラを探しにでかけた。
ミラは近くにまで来ていた。「ミラ、たいへんだ!檻がはずれて沈みそうだ」
「ぼくもヘリコプターの様子を見ていたが、檻が外れたのか」
「でも、まだ浮いている」
「すぐ行こう」ペルセウスとミラは急いだ。しかし、すでに檻の姿はなかった。
「檻は?」ペルセウスが友だちに聞いた。
「今、沈んでしまった。仲間が追いかけている」
「わかった。すぐ行こう!」ペルセウスとミラはすぐに潜った。
「オリオン、どこにいる!」合図を送りながら潜っていった。
やがて、「ここだ!」という合図が来た。「そう遠くじゃないようだ」ペルセウスは合図のほうに急いだ。
そのとき、仲間の友だち二人が戻るのが見えた。ペルセウスに気がつくと、「悪いけど、これ以上はだめだ」と言った。
「後はぼくがついていくから、すぐもどってくれ」と慰めた。普通のマグロではそう潜ることはできないからだ。
しばらく行くと、下から波を感じた。「これは!」と思っていると、暗闇の中から何かがあがってくるのを感じた。ミラが檻を持ちあげているのにちがいない。
影はすぐ下まで来た。「オリオン!」ペルセウスは檻の中を見た、
オリオンは、「ペルセウス、ぼくなら大丈夫だ。ミラが早く見つけてくれたので、まだ苦しくない。きみらはけがをしなかったか」と心配した。
「何を言っているんだ。もっと自分のことを心配しろよ」
「そうするよ。でも、危機一髪のときは、必ず誰かが助けてくれると信じていたんだ」
「確かにそうだ。それじゃ、もう少し辛抱してくれ。ミラと話してくる」ペルセウスは、そこで待つと、檻は上がっていって、ミラの背中が見えた。
「ミラ、ありがとう。オリオンは元気だ」
「心配した。もうすぐ海面に近づくと思うから、近くに船などがいないか見てくれないか」
「了解」ペルセウスは海面に急いだ。