シーラじいさん見聞録

      2017/04/19

リゲルたちは、クラーケンやニンゲンの様子を伺いながら進んだ。真っ暗だが、静かだ。
ということは、すでに、クラーケンたちは大挙して進んでいて、ニンゲンとの戦いが始まっているかもしれない。そうであれば、オリオンの身に何か起きているかもしれない。
リゲルは、みんなにもっと急ごうと促した。

オリオンは、檻の底からゴツンゴツンという音がするのに気づいた。何かがぶつかっている。音はだんだん激しくなってきた。かなりの数がいるようだ。
檻が揺れはじめた。檻にぶつからないようにしなければならない。
クラーケンの一味か。それなら、どうしてニンゲンの監視をくぐって、ここまで近づけたのか。
オリオンは、必死で海面を見た。船からのライトが檻を照らしだしている。警告音が激しくなっている。
しかし、やつらは檻にぶつかるのをやめようとしない。そして、檻の横から体を見せはじめた。
側近の家来ではない。ここで集められたシャチやサメのようだ。20頭近くいる。みんな狂ったように檻にぶつかったり、柵に噛みついたりしている。
「おい、やめろ!ニンゲンの攻撃がはじまるぞ。早く逃げろ」オリオンは叫んだ。しかし、その声でさらに激しく暴れまわった。
「戻れ!そして、クラーケンに、お前たちの気持ちはわかる。ニンゲンにはぼくが話すから、自分の国に帰るように言うんだ!」オリオンは、警告音と咆哮に負けないように叫びつづけた。
そのとき、ギーッという音がしたかと思うと、檻を支えていた支柱の先端がはずれ、中のワイヤーが剥きだしになった。激しい攻撃に耐えられなくなったのだろうが、これでは、檻をあげることができない。
船から機関銃攻撃がはじまった。撃たれたものは、激しく暴れたが、そのまま沈んでいった。
もし、ワイヤーが外れでもしたら、檻は沈んでしまうかもしれないが、オリオンは、そんなことを気にせず、「早く逃げろ!」と叫んだ。
それを通じたのか、一味はどこかに行った。そして、攻撃は止んだ。
オリオンは海面を見た。しかし、ライトはあちこち照らし、警告音は鳴りつづけている。
「オリオン、大丈夫か?」という声が聞こえた。ペルセウスだ。「ああ、ぼくは大丈夫だ。しかし、みんな撃たれてしまったのか」と聞いた。
「いや、船の反対側に行くように指示が出たようだ」
「指示!誰が指示を出しているんだ?」
「クラーケンのそばにいるでかいやつが2頭この近くにいる」
「しかし、それを捕まえようとしていたのに」
「センスイカンも船も狭い場所に集まれないのを知っているようだぜ。わざとそうしたんだ」
「向こうも作戦を練っていたんだな」
「そうだ。下っ端が興奮するように仕向けたんだ。それにしても、檻がはずれななくてよかった。見ていてはらはらしたよ」
「ありがとう。でも、危ないところには絶対近づかないでくれよ」
ペルセウスの友だちが来て、「たいへんだ!」と叫んだ。
「ニンゲンが落ちて襲われている。それを助けようと、ニンゲンが動きまわっている」
「やつらがジャンプして、ニンゲンを引きずりおとすを見た。ニンゲンはすごい声を出して助けを求めていた」
「あの銃撃音がそうなのか。ちょっと見に行ってくる」ペルセウスたちは急いでそちらに向かった。
オリオンもそちらを見ていると、ヘリコプターのすぐそばまで下りてきた。強烈な轟音と風が檻を揺らす。
やがて、ヘリコプターから何か出てきた。あれはニンゲンか。そうか。あれで海に落ちたニンゲンを助けようとしているのだ。

リゲルやミラたちの頭の上をヘリコプターが数機東に急いでいるのが見えた。
ミラは、「ぼくが先に行くよ。リゲルは、海面の様子を見ておいてくれないか」と言った。
「そうしてくれるか。わかったら、すぐに帰ってきてくれ。オリオンに何もないと思うが」
ミラは一気に4,500メートルもぐり、そのまま進んだ。1時間以上進んでは、海面に上がり、様子を見た。
ヘリコプターも船も増えている。しかも、緊迫している様子がはっきりわかった。
何か起きている。クラーケンが姿をあらわしたか。ミラは、さらにスピードを上げた。
やがて、ヘリコプターが旋回しているのが見えた。そして、その下には何か巨大な影があるようだ。何だろう?今度は、浅い場所を進んだ。船が集まっているのだ。
そして、何か泳いでいるのがわかった。クラーケンの家来か。
しかし、このまま行けば目立ってしまう。少し様子を見ることにした。
一艘の船に何か突きでているように見える。それに、他の船が近づこうとしている。あれは何だろう?暗くて見えないが、そんなものがある船は見たことない。
オリオンは潜って近づくことにした。いる、いる、クラーケンの家来が!
そこからさらに潜って一気に上がった。その勢いで、家来をはじきとばした。
その間に、四角いものの近くまで行った。しかし、暗くてわからない。そこを離れようとすると、「ミラ!」という声が聞こえた。
「オリオン!ここにいたのか」
「そうだ。来てくれたのか」
「これはどうなっているのだ」
「檻に入れられてここに来たが、クラーケンに攻撃されて、檻が動かなくなった。
それに、船も故障したようで、ニンゲンがぼくを助けようとしているが、クラーケンの攻撃でうまくいかないようだ」
「もし船が沈没でもしたら、たいへんことになるじゃないか」ミラは、何とかしなければならないと思った。そのとき、船が激しく揺れだした。

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