シーラじいさん見聞録
その話を聞いて、「こんな場所に味方がいるのは心強い」とリゲルが言った。
「同じ仲間だからか」ペルセウスが聞いた。
「パパは、同じ仲間だと思っても安易に近づいてはいけないといつも言っていた。だから、地中海でぼくらを助けてくれた仲間にも、最初は用心していたんだ」
「どうして?」ベらも聞いた。
「同じ種類でも、場所がちがうと何もかもちがうことがあるから、不用意に近づくと、突然襲ってくることがあるのだ」
「今回は、向こうから来たんだね」
「そうだ。互いに無益な争いは避けようという意見に共鳴したからだ」
そのとき、リゲルたちに同行しているカモメが帰ってきた。仲間からの情報を集めにイギリスに向かっていたのだ。
「オリオンのいる場所がわかりましたよ!」2羽のカモメは、さっと海面に降りたかと思うと、「オリオンがいる場所がわかりました」と叫んだ。
みんな急いで集まったので、海が大きく揺れた。「どこにいましたか?」あちこちか声が上がった。
「ドーバー海峡から少し西寄りです。ここをまっすぐ行ったところにある町にある建物です。
わたしたちは目をつけられているので、仲間になってくれた小鳥が動きを見張ってくれています。何かあれば、海辺にいる仲間に教えてくれることになっています」
「ここからどのくらいの距離ですか?」リゲルが聞いた。
「5日もかかりません。ただし、海はどうも様子がおかしいようです」
「何かあったのですか?」
「以前は、いや、つい最近まで、どんなに警戒しても、クラーケンに操られたものがどんどん押しよせてきていましたが、それがピタッと止んだようです」
「それはどういうことだろう、リゲル?」ミラが聞いた。
「どうしたんだろう。一つ考えられるのは、ドーバー海峡はひどく狭いそうだから、クラーケンたちも、このままでは、みんな殺されるかもしれないと判断したのかもしれない」
「他を攻撃するのか?」
「そうかもしれないし、作戦を変えてくるかもしれない」
「とにかく、行こうじゃないか」
「いや、それは無謀だ。いくらクラーケンが静かにしていても、ニンゲンは警戒しているだろうし、オリオンがそこを出ないかぎり、ぼくらもどうしようもない」
「でも、オリオンが海に連れだされても、ここにいては間に合わない」
リゲルは困った。確かにそうだ。「シーラじいさんはどこにいますか?」
「みんなで探しています。ただ、ここで仲間になったものには、シーラじいさんの姿かたちを説明して、見かけたらすぐに連絡するように言っています」
「まだ見つかっていないのですね」
「そうです」
「何もなければいいが」
リゲルの方針は決まった。みんなに話しかけた。「オリオンがいる場所は遠い。だから、オリオンがどこかに連れていかれても、すぐに対応できない。しかし、近くにいても、クラーケンが少ないのあれば、目立ってしまう。
今は、シーラじいさんに会うことを優先しよう。シーラじいさんは、かなり近くまで行って情報を集めてくれているはずだ。そして、それに基づいた作戦を考えてくれる」みんなは、リゲルの考えに同意した。
「ここにいてくれるなら、わたしらも、イギリスに戻って、シーラじいさんを探してきます」2羽のカモメはすぐに飛びたった。、
シーラじいさんは、ときおり海面に出ては様子をうかがった。遠くに白い崖が見えるようになった。
「あれがドーバー海峡のようじゃな」シーラじいさんは思った。「しかし、船があちこち停泊していて、ヘリコプターも、うるさく空を飛んでいる。しかし、海そのものは静かじゃ。
リゲルたちも、ここまでは来ていないかもしれないな」シーラじいさんは、そう言うと、西に向かった。
そして、危険ではあるが、なるべく昼の間は、海面を泳ぐことにした。リゲルたちは心配しているだろうから、早くカモメに見つけてもらうためである。
そして、大きな町があれば、近づいて全体の様子を見た。「確かこのあたりにポーツマスという歴史上有名な町があるはずじゃが」
そう考えているとき、頭を激しく小突かれた。一瞬気が遠くなりそうになったが、重い体を翻して、海に沈んだ。それから、頭を海面から出した。何かがまた攻撃してきた。
それから、少し浮き上がると、またこちらに向かってくる。カモメだ。
シーラじいさんは、カモメの攻撃をかわしながら、「おい、待て!話がある」と叫びつづけた。
カモメは、何回も襲ってきたが、少しあきらめてきたようだ。どこかに行ってしまわないうちにと思い、「お前に頼みたいことがある。聞いてくれないか」と何回も言った。
ようやく、カモメは、シーラじいさんの前に来て、「何だ?」と言った。
「おまえと同じ仲間のものがわしを探しているはずじゃ。シーラじいさんという見かけない魚がいたと伝えてほしい」
「わしらの仲間がおまえを探しているって」
「そうじゃ。わしらは友だちなのでな」
「わしらと魚と友だち?そんなこと聞いたことがない」
「この世界には、聞いたことも見たこともないものが確かにあるぞ」
カモメは、約束もせずに飛んでいった。