シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんは、どうもあてにならんやつだと思いながら、そのカモメを見送った。
仲間のカモメを探しに行こうとも考えたが、リゲルたちは来るとしたら、この近辺にちがいないであろう。また、ポーツマスなどの大きな都市には、必ず海軍の基地や海洋研究所があるはずじゃから、オリオンも、この近くにいるにちがいない。
それに、仲間のカモメは懸命にわしを探しているじゃろうから、わざわざどこかに動くことはない。そのためには、昼間はなるべく海面にいたほうがいい。
それにしても、海は穏やかだ。ヘリコプターや船が警戒しているが、クラーケンが姿をあらわそうとする気配はない。
ドーバー海峡もそうじゃったが、ヨーロッパから離れていってしまったか。そうなると、オリオンも、またどこかに運ばれるのか。
シーラじいさんは、穏やかな波に揺られながら思いを巡らせた。
その後、カモメに気づかれることはなかった。ずっと泳ぎつづけていたので、くたくたに疲れてきた。
そこで、見つけておいた岩で休むことにした。かなり潜ってから、陸地に向かった。大昔、陸地ができたときに取りのこされたような岩山が広がっていた。その中に、ちょうど一人入りこめる隙間があったのだ。ここなら大きなものが入ってこられない。そして、4,5時間眠った。
何か気配がする。いつもとちがう動きが混じっている。センスイカンか。いや、ものすごい数で動いているようだ。シーラじいさんは、岩の間から顔を出して、様子を見た。
音はだんだん大きくなる。しかも、相当深い、そして、こちらに向かっている。クラーケンだ!
音は、大きくなって、また、小さくなって陸に向かている。
「まだ夜中じゃろ」シーラじいさんは、音が向かうほうに行くことにした。
しばらく進むと、浮きあがった。ライトをつけたヘリコプターが爆音を立てながら陸に向かっている。船も、大きな汽笛を鳴らしながら急ぐ。
シーラじいさんも急いだ。銃撃の音が闇夜に響いた。10分ほどすると、銃撃がこちらに近づいてきた。シーラじいさんは急いで潜り、ようやく岩場にたどりついた。
「ニンゲンは、夜中に海に出ることはないのに、どうしてこんなことをするのか」それが不思議でならなかった。
翌朝早く、シーラじいさんは、また海面に向かった。クラーケンの死体などは浮いていなかったし、また、穏やかな海に戻っていた。
「リゲルたちはわしを探しているじゃろ。こういうことが起きるのなら、リゲルたちはこちらに来れない。それなら、わしのほうから探したほうが早いかもしれない」と決めた。
そのとき、「シーラじいさん!」という声が上空から聞こえた。見上げようとしたとき、目の前にカモメがいた。仲間だ。
「わしじゃ。ようやく見つけてくれたか」
「シーラじいさんというものが、友だちのカモメを探しているということを聞いたので、ずっと探していました」
「ああ、あいつは約束を守ってくれたんだな」
「そうです。わたしらも警戒されていまして、油断すると撃たれてしまいます。
今までは、そんなことはしなかったのですが、今は、知らないもの同士でも助けあうようにしています。ところで、昨晩はすごかったので心配しました」
「そうじゃったな。あいつらは夜中に暴れているのか」
「最近はそうです。しばらく暴れると、すぐに戻ります」
「やはりそうか。作戦を変えてきているのじゃな。ところで、リゲルたちはどこにいる?」
「西の海に留まっています。こちらは危険なので、まずシーラじいさんと話をしてから、作戦を決めることにしています」
「そうか。わしがそちらに行ったほうがよいようじゃな」
「あっ、そうだ!オリオンが、昨晩攻撃があった奥の建物にいます」
「そうか。見つけてくれていたのか。元気にしておるか」
「元気です。昼間は、このあたりの小鳥が見てくれていて、わたしらは夜中に近づます。ただ、天井の隙間が狭いので、直接中をのぞくことはできないのですが、オリオンは、小鳥が何らかの使命をもっていることを感じているようです」
「おまえさんたちがいてくれるから心強いことじゃ」
そのとき、またカモメが降りてきた。「シーラじいさん、ご無事でしたか?」

「心配かけたな。わしは元気じゃ」
「わたしはリゲルたちについていますが、リゲルたちが留まっているので、その間にこちらの様子を見にきています」
「役割を分担しているのか?」
「そうです。オリオンがいる場所がわかったので、ヨーロッパを飛びまわって、オリオンを探したり、仲間を増やしたりしていたものも、こちらに集まっています。
それに、そうだ、また忘れていた!アントニスとイリアスも、この近くのホテルにいます。それに、ミセス・ジャイロとジムもいますので、いつ手紙のやりとりがはじまっても大丈夫です」
「わしはすぐに行くから、リゲルたちにそう伝えてくれないか」
「オリオンの近くにいなくても大丈夫ですか」
「まず、リゲルたちと会うのが先決じゃ。オリオンは、みんなに見てもらっているので安心じゃ」
「わかりました。わたしはすぐにリゲルたちに知らせます」
「わたしは。オリオンを見ておきます」
「それじゃ、みんな、気をつけてな」シーラじいさんは、そう言うと、少し潜ってから、西に向かった。

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