シーラじいさん見聞録

   

これが、二人が言っていた手紙か。しかし、イルカやシャチにこんなことができるのだろうか。まず英語を理解していなければならない。そうだ、アントニスは、オリオンは英語がわかると言っていた。それが、オリオンがつかまった理由だ。しかも、カモメが運んできたのはまちがいない。次から次へと疑問がわいてきた。
「やはり、昨晩の攻撃は、シーラじいさんたちに行ったようだな」アントニスの声が聞こえた。
ブラウンは我に返った。「そうだな。でも、激しい攻撃をかいくぐってきたのに、すぐに手紙が作れるのか」
「ベラは女だけど、優秀な兵士なんだ。だから、次のことを考えて用意していたのだと思う」
「英語はどうようにおぼえたのだった?」
「シーラじいさんは、まずオリオンに英語を教えたそうだ。しかし、オリオンがつかまったので、べラは自分から教えてほしいと頼んだと言っていた。英語がわからなければオリオンを助けることができないから」
「そうか。新聞や雑誌はきみらが届けたんだね」
「そうだ。毎週もっていった。シーラじいさんは最新の出来事を知って、自分たちの作戦を練っていたんだ。
ベラは、シーラじいさんに渡す役をしていたので、覚えが早かったんだ」
「シーラじいさんたちは、今はどこにいるんろう?」
「それはわからない。すぐ返事を書くよ」
アントニスはペンを出して、「無事でよかった。今、みんなでオリオンを探している」と書いた。そして、ビニール袋に入れて、待っていてくれたカモメに渡した。
「さあ、これから忙しくなるぞ」アントニスはイリアスに声をかけた。
「オリオンが帰ってくれば、ニンゲンを助けることができるね」イリアスも大きな声で答えた。
「ニンゲン?」ブラウンは思わず聞いた。
「ニンゲンだよ。海底にいるニンゲン!」ブラウンはイリアスを見つめた。
「あ、きみにはまだ言っていなかったけど、オリオンたちは、海底にいるニンゲンを助けようとしているんだ」アントニスはあわてて言った。
「どういうことなんだ!」
「オリオンから聞いた。オリオンたちは、クラーケンを抑えて、元のような平和な海にしようとしているんだけど、去年、海底にニンゲンがいることがわかったので、まずそのニンゲンを助けようとしているのだ」
「それは海のうわさ話かい?」
「ちがうんだ。ぼくも最初は信じられなかった。しかし、オリオンの話を聞くうちに信じるようになった。オリオンたちは、実際そこに行ってニンゲンと話をしてきた。
20年ほど前まで、アメリア共和国とソフィア共和国を中軸とする冷戦が続いていただろう?
どちらの側も、相手の動きを知ろうとしていた。今、海底にいるのは、ソフィア共和国側のニンゲンだが、センスイカンで、相手の様子を探っているとき、事故が起き、コントロールできなくなったそうだ。
ようやく動きだしたが、浮きあがることができず、どんどん下に向かった。海底にぶつからないようにしているとき、ぽっかりあいた穴に入りこんでしまった。
岩にぶつからないようにしているうちに、どんどん奥に入りこんだ。もはやこれまでというとき、センスイカンはすっと前に行き海面に出た。
無我夢中でハッチを開けると、体が楽になった。なんと空気があったのだ。全員思いっきり空気を吸いこむと、てっきりどこかの国に着いたように思った。
幸いにして夜だ。遠くで金色や銀色の光が輝いている。見とれるほど美しかったそうだ。
それは、オリオンたちも見ている。
しかし、敵国ならつかまってしまうので、じっと様子を見た。建物などはどこにもなく、そこは直径4,5キロのドーム型の穴にいることがわかった。
そして、自分たちは地球上のどこかに着いたのではなく、海底のどこかに着いたこともわかった。
さらに、金色や銀色の光は、まさに金や銀そのものだったのだ。当時は、同盟国を増やすために莫大な資金が必要だった。しかし、軍備が最優先なので、ソフィア共和国も、アメリア共和国も頭を痛めていた。
ここにある金や銀は天文学的な価値があるので、これでアメリア共和国を圧倒できる。あとはセンスイカンを修理するのみだということになり、艦長はじめ全員で修理にとりかかった。
数日後、恐ろしことが起きた。センスイカンが突然ひっくりかえったんだ。
暗くてよく見えなかったけど、センスイカンより大きな怪物があらわれたのだ。
みんな陸に上がって逃げたけど、センスイカンは完全に破壊された。
オリオンたちがそこに入ったのは、事故から15年後だけど、3人なくなっていたが、8人いたそうだ。
オリオンたちは、ニンゲンに、自分たちがここにいることを伝えてほしいと頼まれたんだ。
上にいたシーラじいさんは、ソフィア共和国は崩壊したと言った。それで、まず海底にいるニンゲンを助けようと決めて、ソフィア共和国があったほうに向かっている途中なんだ。これが、ぼくらが知っているすべてだ」アントニスは淡々と説明した。
「まるで、SF映画のようだな」ブラウンも衝撃を受けているようだった。、
「冷戦時代は、そういうことは秘密にされていたので、どこにも載っていない。
ブラウン、なんとかその当時のことを調べてくれないか。そして、当時の幹部などに連絡すれば、救出してくれないだろうか」
「うーん、時間がかかりそうだな。しかし、それが実現すれば、オリオンは助けられるというわけだ」
「そうなんだ。リゲルたちも、危険な目に合わずにすむ」
アントニスは、じっととブラウンを見た。

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