第二の男

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(68)

「第二の男」
「ロンドンジャーナル」紙の新聞記者マイクは、世界的科学者が相次いで自殺をした事件で、一人の男が関係していることをつきとめました。
編集長の許可を得て取材を進めましたが、それ以上は何もわからなく、取材は中止になりました。
しかし、どうしても納得がいかないマイクは、有給休暇を利用して、個人的に取材を続けました。
そして、パリ郊外にある研究所を訪れたとき、妙な男に出会いました。どの研究者のパーティの写真にも映っていたあの男です。
男に話を聞くと、科学者を自分の国に来てもらったと言うのです。ただ、こんな話を誰かにしたら、おまえが笑いものになるぞとつけくわえました。
さらに追いかけようとすると、体が氷に閉じこめられてようになりました。10分ほどすると、ようや体が自由になりましたが、すでに男は姿を消していました。
誰かにからかわれているのかと思いましたが、あの不気味さは本物だと考えたマイクは、その研究所の人工心臓の世界的権威オーバン博士に、その男について尋ねました。
「ああいう連中はよく来るよ」と相手にしていないようでしたが、マイクは、あの男は何を言っていたか教えてほしいと何度も頼みました。
「おまえはわしの研究について聞きたくて来たのじゃないのか」と不満そうでしたが、しぶしぶ話してくれました。
それによると、あの男は、「自分はさる人物の秘書だが、その人物は長年臓をわずらっている。ついては、貴殿の言うとおり払うから、まず最初に世界一の心臓をつけてもらいたい」と頼んだようです。
博士は、すぐに引きとってもらったそうですが、マイクは、あの男は、こういう手口で近づいたのか、それで、誰も、あの男について話していないのかと合点がいきました。
数か月後、ロンドン市内の研究所に行くことになりました。その研究所のメイヤール博士は、「人間は瞬間移動ができる」と主張していて評判になっています。
マイクが、その研究所に向かっていると、「マイクさん」という声がしました。振りかえると、若い男が笑顔で近づいてきました。見かけない顔ですが、笑っていない眼はどこかで見たことがあるような気がしました。
若い男は、「マイクさん、少し時間をください」と言いました。
「それはいいけど、どうしてぼくの名前を知っている?」
「いや、部長から聞きました」
「部長?」どこかの新聞社の部長かと頭を巡らしていると、「オーバン博士の研究所で会ったでしょう?」と得意そうに答えました。
「ああ、あの死神か。あれが部長?」
「そうです。リクルート部長です」
「えっ、死神とは永遠に一人じゃないのか?」
「ちがいますよ。マンネリにならないように500年で変わります。また、戻ってくる人もいますが」
「代わった人はどこへ行くんだい?」マイクはおもしろがって聞きました。
「教育とか企画とか無数にありますよ。なにしろ、ぼくたちは死なないのでね。
そんなことはどうでもいいですけど、とにかく、ぼくは、今のリクルート部長の覚えがよくてかわいがってもらっています。
それで、この事態は由々しきものなので、向こうの様子を見てこいと言われましたので来ています。向こうとは、ここ、あなたがいる世界ですが」
「それはわかった。それで、何が由々しき事態なんだい?」
「死にたいと思う者が異常に増えていることです。処理が手作業では対応できないので、コンピュータ化にするために、リクルート部長が直々にこちらに来て、手前どもの国に来てもらったのです。ついでも、コンピュータの専門家以外にも来てもらいましたが」
「死にたい者はどうしてわかるのだ?」
「方程式があります」
「方程式?」
「生存年数や苦労の係数、あるいは、一日何回死にたいと思うかとか、100以上の項目があります」
「思うだけでも、そちらでわかるのか?」
「わかります、わかります。それが仕事で」
「それが一定以上の数値になれば、自殺をそそのかすのか」
「そそのかすとは人聞きが悪い。慈善事業ですよ。でも、99%以上は口ばっかりですがね」
「結局、きみの仕事は何かね?」
「何なんでしょうかねえ。手前どもの国に押しよせる人の波を調整することですかね。どうせ、みんな来るのですが」若い男は、困ったような顔で言った。
「人が死ぬとうれしいのじゃないのか?」
「そんなことはありません。我々としては、楽しく死んでもらわなくては。
やむなくリクルートした非は認めますが、今後あなたには、ここの人々に、死にたいと思っても、口に出してはいけないということを伝える仕事をしてほしいというのがリクルート部長の願いです」
「さっきは、思ってもカウントされると言ったじゃないか。どうでもいいけど」
「さすが新聞記者だ、マイクさんは。思っても、係数は微々たるものですが、口に出すと、
桁が上がるものでね。そうなると、本人のためにならないし、我々の仕事も増えるということで。それでは」
マイクが、さらに質問しようとすると、突然激しい風が吹いてきて、目を開けると、若い男は消えていました。

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