空の上の物語
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(47)
「空の上の物語」
空にいる傘たちにとっても、今年ほど忙しい年はありません。
冷たい北風が吹きあれているときは、南の空に逃げていますが、穏やかな風が吹き、山々が新緑に生まれかわるようになると、また戻ってきます。
もちろん、傘たちは寒さを感じないのですから、体を広げたりすぼめたりするのは少ししづらくなるからです。
それに、空も下界も、雪で真っ白ですから、空にいてもおもしろくないのです。
それにひきかえ、新緑の季節は、桜が咲き、今度は全山桜色になります。空から見事な景色をみるときほど幸福なことはありません。
でも、今年は、そろそろ春が来るかなと思っていると、突然冬に戻ってしまうのです。
しかも、春を通り越して、夏になったかなと思うと、また冬が・・・。
ここに出てくる傘たちも、寒くなれば、沖縄上空でのんびりして(いつぞやは、オーストラリア上空まで、観光がてらの避寒旅行をして、向こうで多くの傘と友だちになったりしました)、春一番が吹くころになると、本州の空に戻るのですが、ビニール傘が仲間になってからは、冬が一番忙しい季節になりました。
嵐のときに、街中で捨てられているビニール傘の仲間を助けに行くからです。
ビニール傘は、空では一目(いちもく)置かれている黒い傘に、「ぼくが勝手にやっているんだから、みんなは、どこかで遊んでいたらいいよ」と遠慮したのですが、黒い傘たちは、嵐が吹きあれていても、ビニール傘の仕事を手伝ってくれるようになりました。
あちこちで、風で吹きとばされて、うずたかく重なった傘に、「あきらめたら終わりだぞ!」と声をかけ、「分かった」と返事をした傘には、みんなで助けるのです。
そして、もう100本以上の傘が(ほとんどがビニール傘ですが)、空で生活をするようになり、風の強い日は、自分が助けられたように、別の傘を助けにおりていきます。
しかし、最近、空のパイオニアともいうべきビニール傘の元気がありません。
初めて空に上がったビニール傘で、「あんなビニール傘なんて、すぐに落ちてしまうさ」と嘲笑されながらも、懸命に飛び方をおぼえ、空の仲間を助けるなどをして、今や誰からも尊敬されている「がんばりやさん」なのにどうしたことでしょう。
仲間から離れ、1人でぼんやりしています。ただ時間が過ぎていくのを耐えているようなのです。
華やかな花柄の傘や、天然桜材の柄の傘など、古くからの親友も心配して、リーダーの黒い傘とともに、ビニール傘を訪ねてきました。
「最近、どうしたんだい?みんな心配しているんだよ」黒い傘が聞きました。
「そうよ。今あなたががんばらないと、新しい仲間が、これからどう生きていけばいいのかわからないでしょ?」花柄の傘も励ましました。
「地上に飛び降り自殺をしたときに、『エリート意識を捨て、新しい生活をはじめるんだ』と言ってくれたのはきみだったのに」と、高級桜材の柄の傘も泣きそうな声で言いました。
ビニール傘は、3人をちらっと見て、「みんなには感謝している。ぼくの自己満足につきあってくれて、多くのビニール傘を助けることができた」ビニール傘は、小さなこえで答えました。
「そんなこと言うなよ。ビニール傘でも生きる権利があるのだという、きみの熱い思いがあったからこそ、ぼくらも、困っているものを助けようという気持ちになったんだ。
空の世界は、これからどんどん変わっていくだろう。きみが、どう生きるかを仲間に教えなくてはいけないよ」黒い傘はやさしく声をかけました。
ビニール傘は、じっと聞いていましたが、「ぼくもそう思う」と答えました。
「それなら、何があったんだい?」黒い傘が、もう一度聞きました。
「嵐の翌日、まだ助けを求めている傘がいないか下界まで行ってきたんだ。
すると、テレビのインタビューを受けていた人間が、カメラに向かって、壊れたビニール傘を指さしながら、『見てくれよ。こんなにゴミを捨てやがって』と答えていた。
ぼくは、あんなにきつい風のときに、ぼくらのようなものを使うほうが悪い。ぼくらは、人間が吹きとばされるようなときのために作られていない。それをゴミなんてと思った。ビルの屋上まで上がることはできたけど、悔しくて、そこで長い間泣いてしまった」ビニール傘は、また泣きそうになった。
「そうだったのか。人間は簡単にできるものは重宝しないから、少し不具合ができるとすぐに捨ててしまうからな」
「それは、ぼくにもわかっている。ぼくも、コンビニの傘立てに半年もほっておかれたんだから。
でも、いくらそうでも、まちがった使い方をしておいて、ゴミとかクズとか言わないでほしいよ」ビニール傘は、今度は怒りを口にしました。
「生みの親ともいうべき人間は確かに勝手なものだ。いずれ、もっと頑丈な傘を作って、きみらのような不幸なものは少なくなるだろう。今は、きみがすべきことをするときだよ」
黒い傘はやさしく諭しました。
ビニール傘は、じっと聞いていましたが、「きみらのような、人間が自慢をする傘には、ぼくの気持はわかるまいと考えていた。しかし、きみらはほんとの親友だとわかった」ビニール傘はうれしそうに言いました。
「一年生が、あなたを待っているわよ。早く行きましょう」花柄の傘が、花のような笑顔で言いました。