シーラじいさん見聞録

   

「みんなの心配はよくわかる。そして、ペルセウスを早く見つけたいということもね」オリオンは言った。
「そうだな。ぼくらだけで、あの中に入らなければならないから、みんなの不安や疑問を今のうちに聞いておきたかったんだ」リゲルはうなずいた。
「ぼくが先頭を行くから、みんなはペルセウスを探してくれたらいいよ」ミラが言った。
「ありがとう。シーラじいさん、ペルセウスを探します。危険を感じたら、すぐ戻ってきますから」
「おまえたちに任す」シーラじいさんも了解した。
「もう一度聞くが、ニンゲンが戻ってこないと怪物が言ったのは、どうも気になるなあ」シリウスが遠慮げに言った。
「シーラじいさんはどう思いますか?」リゲルが、少し不満そうに聞いた。もっと大事なことがあるだろうと思ったのだ。
「相手の何気ない言葉を見逃さないのは大事なことじゃ。案外それが相手の本質をつくことがあるからな」シーラじいさんは、シリウスを励ますように言った。
「しかし、わしにはわからん。とにかく、どんなことが起きるかわからんので、みんな離れずに行動することじゃな」
シーラじいさんに礼を言って、穴に向かった。
「そこが、どんな世界でも、たとえ地獄でも、ぼくらはいっしょだ」シリウスが叫んだ。
「そうよ。勇気と知恵があれば、どんな怪物にでも勝てるわ!」ベラも応じた。
2人は、初めて穴の奥に入ることに興奮していた。
いよいよ着いた。硫化水素が止まっていた。リゲルを先頭に一気に入った。
二つ目の穴を進むと、センスイカンが見えてきた。
「あれがそうか」シリウスがつぶやいた。
「そうだ。あの近くに怪物がいるかもしれない」オリオンが答えた。
「いるわ!」ベラが叫んだ。みんな止まった。
「見えるのか!」リゲルがささやいた。
「細かいところはわからないが、ものすごく大きいのはわかる。。センスイカンを立てたような形をしているわ。そして、足元は広がっている。
ミラぐらいあるかもしれない。こっちを見ているようなんだけど、動きはないわ」
「そうか。それじゃ、このまま行こう」リゲルが言った。
ミラが前に出た。全員あたりを警戒しながら、ゆっくり進んだが、音一つしなかった。
しばらく行くと、何か感じたのか、ミラが止まった。そして、後ろを振りかえり、「ぼくが見てくる。みんなここで待っていてくれないか」と合図を送ってきた。
ミラは、そう言うと、ゆっくり前に進んだ。誰も一言も言わないで、その場で待った。
しかし、体が四方八方に引っぱられるようだ。奥に行くほど、磁界の乱れはきつくなっている。
それに耐えながら待っていると、遠くから小さな波を感じた。ミラが帰ってきたのだ。
ミラは、ゆっくり帰ってくると、「このまま行くと、また道が分かれている。どうしようか?」と報告した。
「誰もいなかったか?」オリオンが聞いた。
「誰もいません。しばらく両方の穴を窺っていたのですが、動きはありませんでした」
ミラは、丁寧にオリオンに答えた。
「リゲル、どうしようか?」オリオンが聞いた。
「いったん戻ろう」リゲルはすぐさま決めて、全員それに従った。
激しい緊張感で疲れていたのか、海面に戻ると、みんな、ぐったりしたように眠った。
そして、ようやく元気が戻ると、リゲルの元に集まった。
「あの沈黙ははじめて経験した」シリウスは早速声を出した。
「確かに、わたしたちの海とはちがうわ」ベラも納得したように言った。
「すべての音が岩に吸いこまれているようだろう?」シリウスは、ベラに言った。
「そうね」
「ところで、怪物は最後まで動かなかったようか」リゲルが、ベラに聞いた。
「戻るときは、急いでいたから、ちらっとしか見なかったけど、多分、同じ姿勢でいたように思うわ」
「それなら、ぼくらの心配は杞憂だったのだろうか」リゲルが言った。
「それならありがたいが、シーラじいさんが言っているように、絶対一人にならないようにしよう」オリオンも言った。
心身の疲れが、相当ひどくなるので、今後は全員の体調が完全になってから入ることにした。しかし、翌日になると、全員早く行きたくて仕方がなかった。
それで、前日に引きかえした場所から、さらに二つに分かれたところまで行き、まず一方の道に入った。
同じように、漆黒の道が続いているだけだ。ミラは、また様子を見てくるといって、一人で行った。
戻ってくると、「ああ、また分かれている」と苦しそうに叫んだ。
「わかった。今日は戻ろう」リゲルは、不安を収めるように言った。
海面に戻ってからも、みんな無口だった。
これで、ペルセウスは生きているのだろうかという思いが、心のどこかにあったのだ。
2日後、みんなの心に、「こんなことであきらめたくない」という思いが湧いてきたようだ。
お互いの顔を見て、お互いがうなずいた。やがて、新たな思いで、穴に入った。
センスイカンを通りすぎようとしたとき、「おい、おまえたち」という声が響いた。
みんなはびくっとしたが、それは怪物の声だった。
声のほうを見ると、「まだ仲間は見つかっていないようだな」と言った。
オリオンが答えようとすると、「奥から、誰かが出てくるようだぞ。厄介なことになるかもしれないから、わしについてこい」と続けた。全員体が固まった。

 -