ユキ物語(27)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(255)
「ユキ物語」(27)
そこまでの考えを持っているのであれば断ることはできない。納得するまでついてきてもらったほうが安心である。
ただ、シカがいれば、ウサギが疲れても休むのを気兼ねするかもしれない。それで、ウサギの様子を気をつけてやろうと思った。幸い、その後ウサギは疲れることなく下りていった。
二日目の昼ごろ、先頭にいた2頭のシカが立ち止まった。おれもそれに合わせて止まった。ウサギも動きを止めている。
おれが、「何かあったのですか」と聞こうとしたとき、1頭のシカが首を斜め前に向けた。
おれはそちらのほうに耳を澄ませた。すると、がさっという音がかすかに聞こえた。
その日は朝から風一つない晴天だった。鳥の鳴き声がときおり聞こえるだけだった。だから、どんな小さな音も聞こえたのだ。
何かがいるらしいのは分かったが、それが何なのか、そして、何をしているのかは分からない。
今後は前2頭、後ろ1頭のシカに任せるしかない。すると、前のシカは抜き足差し足で動きはじめた。おれとウサギもなるべく音をたてないように動いた。
10分近く誰も一言も言わず、あたりに注意しながら進んだ。
鳥が鋭い声をあげた。おれはそちらを見上げた。すると、ガオーというような叫び声がしたかと思うと、何かがおれにぶつかってきた。おれは必死で逃げた。
しかし、ウサギのことを思いだしたのですぐに戻った。
すると、後ろにいたシカに大きな黒いものが乗りかかっていた。
クマだ!熊がシカを襲い、逃げようとしたシカがおれにぶつかったのだ。2頭のシカが、仲間を助けようと何回もクマにぶつかっていった。
しかし、クマはシカに噛みついたまま、ぶつかるシカを前足で払いのけた。
おれもクマの後ろ足に噛みついた。しかし、おれの体は宙飛んだ。何回も噛みついたが同じことだった。
「行きましょう」という声が聞こえた。おれは何とかできないかクマのまわりを回った。
だが、「早く、早く」という声でその場を離れざるをえなかった。
シカは飛ぶように下りていった。おれも必死で追いかけた。しばらく行くと突然止まったので、おれも転がりながら止まった。
シカは振り返って様子を見た。おれがそばに行くと「大丈夫でしたか」と聞いた。
「おれは大丈夫ですが、お仲間はどうなりましたか?」と聞いた。
「やつの餌食になったと思います」
「ほんとですか!」おれは叫んだ。
「首を噛まれていたのでどうすることもできません」
「そんな。助けに行きましょう」
「あなたたちを守るのがわたしたちの任務ですから、あいつのことは仕方ありません」
「それに、あいつはおれたちのために犠牲になってくれたのです。あのクマが当分わたしたちを襲うことはありません」
おれはその意味が分からなかったが黙ってうなずくしかなかった。
山はおれたちを優しく包んでくれるものだと思っていたが、山の中では今まで横にいたものが突然死んでしまうこともあるのか。そして、こんなことがよくに起こるのだろうかと不安になった。
「あなたの仲間を探しにいきましょう」
そうだ。あいつはどこに行ったんだ。まさか餌食になったんじゃないだろうな。
おれたちは警戒しながら戻ることにした。