ユキ物語(26)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(254)
「ユキ物語」(26)
おれは、「どうして同じ名前なんですか」と思わず聞いてしまった。
ヤギの老人は、いたずらっぽい表情で、「わしが間抜けに見えたからじゃろ」と言った。
おれは、「そんな」と言うしかなかった。
「それはともかく、人間というものは、自分がこの世で一番賢いものだと思っているようじゃ。もちろん自然を変える力を持っているからそう思っても仕方がないが。
しかし、それもわずかなもので、大きな天変地異が起きれば人間もわしらもどうすることもできない」
突然話が難しくなってきたので、おれはうなずくしかなかった。すると、ヤギの老人は、「あんたは人間からどう呼ばれていたんじゃ」と聞いてきた。
少し躊躇したが、思いきって「ユキです」と答えた。
「ユキか」老人はそう言っておれを見た。恥ずかしさと後悔の念が一気に高まった。
「名前はありません」と言うべきだったと思ったとき、「きれいな名前じゃ。
名は体(たい)を表すというからな。しかし、今のおまえさんの体はひどく汚れている。
ウサギを早く親の元に戻して、また元のユキのような体になることを願って居る。時間を取らせた。早く行きなさい」
おれは頭を下げてその場を離れた。ウサギもついてきた。すると、3頭のシカが寄ってきた。
おれは会釈をして進もうとすると、1頭が、「長老から道案内をするように言われています」と言った。
「いや。大丈夫です」と言ったが、「しばらく案内します。危険な場所がありますから」と言った。
確かにここに来るときに岩と崖の間の細い道を通ってきたきたことを思いだした。
それに、おれ一人ではなく、小さいウサギもいる。おれは、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
おれは礼を言うために後ろを振り返ったが、長老と言われている老人の姿はなかった。
2頭はおれたちの前に1頭は後ろにいて、前に進むことになった。「危険なのは道だけでなく、危険な動物もいますから」ということだったからだ。それはそうだ。以前も大きな鳥がウサギを襲ってきたことがあった。
それで、とりあえずこの岩場を通り越すまではいてもらおうと思った。
しばらくの間ウサギの動きに合わせておれたちは順調に進んでいたが、ウサギが疲れてきた。
この岩場では仕方がない。おれは、「大丈夫か」と声をかけた。するとウサギは今までも以上に早く進む。こんな小さなものにも意地というものがあるようだ。
しかし、しばらく行くとまた動かなくなった。
シカもいるので、おれはこいつを自分の背中に乗せていこうと決めた。
それで、前足を折って「背中に乗れ」と言ったが、意地なのか意味が分からないのかおれの顔を見ているだけだった。
シカも、おれの背中や自分の背中に乗せようとしたが無理だった。
ウサギも早く山を下らなければならないことはわかっているので、本人の動きに合わすしかない。すると、ウサギはすぐに動きだした。
夕方になってようやく木が生い茂る場所に着いた。
「空から襲われるおそれはなくなりましたので、今日ははここらで休みましょう」とシカが提案した。
「そうですね」おれは承諾して、「ここからは二人で下ります」と言った。
「いえ。しばらく危険な道が続きますからもうしばらくいます。長老からは、『物事には自分が納得できるまで向き合わないとわからないものだ。その物事も、自分も』といつも言われています」と言った。確かにそれを実感することになった。

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