ユキ物語(20)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(234)
「ユキ物語」(20)
おれは体を低くして構えた。暗闇ではっきりとは見えないが、かなり大きい。
田舎で初めて見た牛ぐらいあるようだ。でも、牛は山にいるのか。
鼻息が聞こえる。それに獣くさい。よく見ると二つの目が鈍い光を放っておれの方を見ているようだ。
足が震えるのを分かった。攻撃は最大の防御だ。おれは弱気を払いのけるためにそう思った。まず相手を驚かすことだ。
おれは100分の1秒後には腹から声を出して、そいつの顔に飛びかかり、二つの目に爪を立てた。
さすがの怪物もおれの奇襲攻撃に驚いてひっくりかえった。そのまま木にぶつかったようで、ドスンという音がした。
しかし、これからが勝負だ。この怪物からウサギを離さなくはならない。
おれは、そいつに向かって激しく吠えた。もちろん、背後のほうを見てうまく逃げられるかを確認しながらだ。
案の定、怪物は怒り狂っておれを追いかけてきた。おれは様子を見ながら逃げた。
やつは夢中になって追いかけては木にぶつかり、またおれを追いかける。
おれもそう目がよいほうではないので、木で何回も体を打ったが、体が軽い分すぐに立ち上がることができた。
だんだんおもしろくなってきた。おれは時々やつの後ろに回って突然大きな声で吠えてやる。それから、やつから離れる。
やつの動きが遅くなっているのがわかった。そろそろゲームは終わりだ。
おれは耳を澄ませて様子をうかがった。まったく音がしない。やつは傷心して去っていったのだろう。
おれはウサギがいる場所に向かった。そして、洞に入ったがいない。どこかに隠れているのだな。おれの作戦はことごとくうまくいったようだ。おれは、帰ってこいと少し声を上げた。
しばらくすると、ごそごそという音がした。ウサギはどこからか帰ってきてから、おれの体に自分の体を寄せてきた。
おれも、「大丈夫だったか」と体を寄せた。何だか恥ずかしかったが、まあウサギが喜んでいるのなら我慢しよう。
「少し広い場所でやつを見たが、どうもクマという動物のようだった。あんな大きいものは、おれでもまともには勝てないぜ。何がいるかもしれないから、これからも気をつけよう」おれはウサギにそう言ってから、もう一度休むことにした。
翌日、ウサギが用意してくれた木の実などを食べたが、体中が痛い。もう一度眠ることにした。夕方になってようやく楽になった。
今後のことを考えた。ウサギもかなり動けるようになったからそろそろ出発しようと思った。おれとしても、ウサギを早く家族の元に届けなければならない。
しかし、どちらに行けばいいのかわからなかったので、ウサギに聞いた。
「きみの家族はどこにいるの?あっ、そうじゃない。家族はきみを探してあちこち動いているはずだね。家族と別れたのはどこなの。そこに行こう。きっときみのパパとママはきみと離れ離れになった場所に戻ってくるから」おれは精一杯やさしく言った。
ウサギは分かったようで、おれの言葉にうなずいた。それからあちこちを見た。
しかし、どちらの方向なのかはわからないようだ。
それはそうだろう。おれもおじいさんと散歩した河原がどこにあるのか分からないのだ。
それとクマと一悶着があったので、どちらが北か南かがさっぱりわからなくなっていた。
最前おれの祖先はヨーロッパの山岳地帯で牧羊犬や番犬として働いてきたと言った。
クマとの戦い方は少し男らしくなかったが、まあこんなものだろう。しかし、おれが今どこにいるかが分からないのは情けない気がする。
しかし、おれには祖先の本能があるはずだ。そう思って懸命に考えた。