ユキ物語(12)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(225)
「ユキ物語」(12)
さすがのおれも暗いうちに目がさめたようだ。外は木の枝が判然しない暗闇だ。しかし、鳥の声はどこからか聞こえてくるから、刻一刻と明るくなっていくだろう。
まあ、おれが何かするわけではないが、悪党どもの成功不成功でおれの運命が左右されるのはまちがいない。
その時、山崎が入ってきた。いつもより早い。こいつも寝られなかったのか。
パソコンで何か見ている。すぐに立ち上がってインスタントコーヒーを入れた。
立ったまま一口飲むと出ていった。しかし、すぐに戻ってきた。
落ち着かないようだ。その間に夜はすでに明けきり、町は動きだす気配が出てきた。
このアパートは山崎一人が借りているようだ。おれが逃げようとしたとき少し分かったが、もう一つ部屋がある。
暗くて見えなかったが、そこにベッドがあるのだろう。他に同居しているものはいないようだ。女が来ることもない。一日中いることが多いが、家賃はどう払っているのか。もう少し事情を知りたいが、事態は風雲急を告げているのに、のんきなことを考えている暇はない。
その時、ボスと中岡が部屋に入ってきた。すると、ボスと中岡がすぐに入れるように玄関の鍵はしていないような気がする。
それなら、檻から出られたら、すぐに逃げることができるだろうが、チャンスがあるだろうか。今は悪党の様子に五感を集中しなければならない。
山崎はボスと中岡にもインスタントコーヒーを作ってやった。
3人は黙ってコーヒーを飲んでいたが、やがてボスが声を出した。
「さあ、いよいよだ。落ち着いていこう。みんな頼むぞ。金はきっちり3等分するからな。おれはせこいことは嫌いなんだ」
「はい」中岡と山崎は声を揃えて答えた。
「昨日、あれから下見して来たんだ。お地蔵さんがある筋とコーヒーショップの位置関係を確認するために店に入った。窓際の一番奥の椅子にすわれば、筋に入る人間がよく見える。
それから、お地蔵さんにも行ってきた。あの筋は向こうの道にも行けるし、途中左右に行ける道が三つある。まるで『あみだくじ』のようになっている。どこにでも逃げられる。山崎、よくあそこに気づいたな」
「散歩しているときに見つけたんです」
「そうか。あそこなら絶対大丈夫だ、それから、その時にこいつの写真をお地蔵さんの後ろにでも隠そうと思ったんだが、あのお地蔵さんには、花も新しいし掃除もされている。掃除するやつに見つかる恐れがあるから置かなかった。それで、今日電話する前に行く」
「ぼくも行きましょうか」中岡が聞いた。
「いや。一人で行ってくる。もしもの場合に顔が割れるのを用心したほうがいいからな」
「なるほど。お願いします。それじゃ、金を置かす場所はお地蔵さんにするのですか」
「候補地は二つある。一つはお地蔵さん。もう一つはスーパーがあるだろ?
広い入口の前にあるバス乗り場がある。いつも乗客がベンチでバスを待っている。その背後にあるいくつかゴミ箱がある。そのどれかに置かす。
警察に見張られても乗客に紛れることができる。バスが来たときに、金を取って店の中に入る。
すぐ左に店員用の出入り口がある。何気ないようにして進む。別の場所にも出入り口があるからそこから出る。その時は中岡は車で待て」
「はい」二人は緊張してきたようだ。
「よし。行ってくる」ボスは出かけた。二人はフーッと息を吐いた。「山崎、コーヒーを入れてくれよ」中岡が言った。
おれは時計を見た。9時30分だ。時計ぐらい分る。店のスタッフはいつも時計を見て、何かしゃべっていたので覚えたのだ。
ボスはお地蔵さんのどこかにおれの写真を置いただろう。そして、10時には電話するだろう。おれも、中岡と山崎のように喉が渇いてきた。

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