やさしい王様

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(53)

「やさしい王様」
昔々、あるところに、とてもやさしい王様がいました。人々も、王様が大好きで、行列があろうものなら、みんなこぞって行列を見に行きました。
そして、馬車に乗っている王様を取りかこんで、「王様、お元気ですか」とか「王様、ごちそうをしますから、ぜひ家に来てください」などと声をかけるので、馬車は動けません。
御者は、「時間がないから、どいてくれ」と叫んでも、王様も、「いいじゃないか。みんなの気がすむようにさせてやればよい」と言って、昔からの友だちのように、人々と話をしました。
諸国を旅する行商人たちは、その光景を見ながら、「こんな王様は見たことない。王様というものは威張りちらすものだし、行列があれば、人々は外に出ない。同じように威張る家来に因縁をつけられたら大変だからな」とひそひそ声でしゃべりました。
王様は、ご機嫌取りで、そんなことをしているのではありません。実際、お妃(きさき)と3人の子供、そして、家来には、いつも、「みんなが働いてくれるから、わしらは、こうしておられるんだ」と言っていますし、実際、食べものも、着るものも質素です。
パンとチーズと野菜があれば十分だと言って、肉を食べません。ときどき、夕食のときにワインを飲みますが、こんな贅沢はないと満足そうです。
どこかの王様と会うようなときも、昔から同じ服装なので、あちこち破れています。
見かけた家来が、「そろそろ新調なさっては?」と聞いても、「服装で人間の値打ちが決まるものではない」と頓着しません。
また、家来が、「お城が相当傷んでおります、修繕してもかまいませんか」と尋ねても、「当分、戦争は起こりそうにないから、そんな金があるなら、みんなのために使え」と言うばかりです。
ある年、日照りが続いて、小麦や野菜が全くできない年がありました。人々は年貢を払うことができないばかりか、餓死するものまで出る始末です。
それを聞いた王様は、「今年の年貢は払わなくともよい。そして、城にある食糧をみんに配れ」と命じました。
人々は涙を流して喜びました。そして、来年は、決まった量以上の年貢を払い、感謝の気持ちを表そうと誓いました。
心を痛めた王様は、隣の国はそんなに不作ではないことを聞いたので、自ら隣の国に出向いて、そこの王様に頭を下げて、食糧を貸していただけないか頼みました。
熱意が届いたのか、少し借りることがきたので、それを自分の国に運びました。
人々は、お城に行って、感謝の気持ちを言いました。王様は、「神様が試練を与えているのだから、みんなで助けあえば、また平和な国になるだろう」と答えました。
そして、公平を期すために、借用書を書かせ、余裕ができたら、分割でもいいから返すようにと言いました。それを、次の飢饉に使うことができるからです。
しかし、その次の年も、また、その次の年も、雨は一粒も降りません。その暑さといったら、まるで太陽が近所に引っ越ししてきたようでした。
王様は別の国にも掛けあって、食糧を借りてきました。人々は、痩せた体を振りしぼってお城に行き、王様にお礼に言いました。
ようやく、4年目に、念願の雨が降りはじめました。しかも、半年あまり一日も休むことなく降りつづきました。今まで一滴の水もなかった川は氾濫し、家や畑を押し流しました。王様や人々は、毎日じっと我慢をしながら雨が止むのを待ちました。
半年後、最後の雨粒が落ちると、太陽が顔を出しました。そして、昔のような穏やかな日が始まりました。
王様は、これで人々が一生懸命働く光景を見ることができると喜びました。
しかし、何日立っても、人々は畑に出てこようとしません。
「どうしたのだ!すぐに調べてこい」と家来に命じました。しばらくして帰ってきた家来は、「みんな酔っぱらっているようです」と報告しました。
「朝からか。何ということだ」王様は絶句しました。それから、腹心の家来にどうしてこんなことになったのか聞きました。
家来は、「王様がやさしすぎるからです」と答えました。
「それなら、日照りのときも一生懸命働いて、年貢をきっちり納めろと言ったほうがよかったのか」と自分に聞きました。
「これからどうしたらいいのだろう?」
「他の王様の真似をすることはありません。自分の思ったようにしたらいいのです」
王様は、三日三晩寝ることもせず考えに考えました。
4日後、王様は、お城の広い庭を畑にすることにしました。そして、自ら野良仕事をはじめました。
それを見ていたお妃と3人の子供、そして家来たちも、慣れない野良仕事をするようになりました。
毎日丁寧に世話をしたので、麦や野菜は山のように取れました。借りているものを返し、残ったものは人々に配りました。
家来から事情を聞いた人々は、ようやく自分たちの過ちに気づき、王様にあやまりました。「わしも、今まで目先のことしか考えなかった。これからは、何か起きても、次のことを考えることにしよう」と答えました。
それから、天災や人災がありましたが、いつでも早く立ちなおることができましたとさ。

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