今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(54)

「心」
昔、神様が人間をお作りになろうとしたとき、姿は、自分に似せるとしても、心は、どうしようかとお悩みになりました。
せっかく作るのだから、「苦労はしたけど、生まれてきてよかった」ぐらいは言ってほしかったのです。神様は、助手を呼んで、意見を求めました。
「人間の心に、もう一人の人間を住まわせてどうだろうか?」
「と言いますと?」
「何か困ったことがあると、2人で相談するのだ。すると、困難をうまく切りぬけることができるじゃないか」
「いい考えだと思いますが、ます当の人間に聞いてみるのも一考かと」
「そうだな。まず雛形(ひながた)を作ってみるとするか」
神様は、まず心に本人しかいない人間をお作りになりました。それから、100年ほどしてから、「どうだ?困ったことはないか。何なら、心にもう1人の人間を入れてやろうか」と聞きました。
人間は、「神様のやさしさには感謝しますが、心にもう1人の人間がいると、話がいつまでもまとまりません。第一、自分のことは自分で決めたいのです。今の心で十分でございます」と神様の申し出を断りました。
「今まで経験したことのないような災厄が起きるぞ」と念を押されましたが、人間は、「その心配には及びません」と言うばかりです。それならと神様はお帰りになりました。
それから、1000年立ちました。あるとき、助手がやってきて、部屋をノックしました。神様は助手を部屋に入れて、要件を聞きました。
「昔、お作りになった人間のことでございます」
「人間?」
助手から、人間とはどんなものか聞いて、ようやく思いだしました。
「確か心配など必要ございませんとか言っていたな。それがどうした?」
「1000年立ち、自分のものをたくさんもっているのに、相手のものをほしがるようになって、殺しあうようになりました。
それで、みんなが、『神様、助けてください』とか『神様どうしたらいいのでしょうか』とか頼んでいるのです」
神様は、苦虫を噛んだような顔をして、「だから、あのとき、2人いれば解決策を見つけることができると説明してやったじゃないか!今さら頼まれても、わしも忙しい」
話しているうちに、だんだん激昂してきて、「ほっておけ!」と怒鳴りました。
気が短い人は、案外気が弱いものです。この神様も一緒です。助手を追いはらって、一人になると、「以前、この童話シリーズで、神にも、製造物責任(PL法)があるとかいうのがあったな。何か方法はないだろうか?」と考えました。
そして、神様は、別の種類の人間を作ろうと決めました。今頃、人間は、「神様、助けてください」などと頼んでいるのだろうなと思いながら、まず、仲間の神様をモデルにして、形を作ることにしました。それだけで3か月かかりました。作り方を全く忘れていたからです。
それから、心に、2人住まわせるのと、3人住まわせたのを作ってみようと思いました。そして、1年後、二つのタイプの人間が出来上がりました。
それぞれを、別の実験場に入れてから、様子を見ることにしました。
最初は、見るもの聞くものが珍しそうでしたが、食料をどう集めるかで悩むようになりました。どちらのタイプも、じっと考えていましたが、うまく集めることができました。
それから、雨を休みなく降らしたり、日照りにさせたりしました。やがて、心に3人いるほうがあきらめないのに、2人いるほうは何もしなくなりました。
やがて、3人いるほうも何もしなくなりました。
それを見ていた助手は、「1人しかいないのとそう変わりませんね。それなら、なんで、最初から神様に頼むのだろうか」とつぶやきました。
「まあ、気休めだろう。自分は1人じゃないと思いたいのだ。もう少し心に1人しかいない人間の様子を見てみよう」と言って、その場を去りました。

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