月をもらった男

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(204)
「月をもらった男」
昔々、神様が地球を作ったばかりの頃の話です。神様はしばらくの間自分の家来を地球に住まわせることにしました。
地球の出来具合を調べるためと、自分たちがいなくなれば、ここにどういうものを置こうか決めるためでした。
数百年すると、家来に子供が生まれ、さらに子供が生まれていくので、あちこちに大きな町ができました。
みんな楽しそうに暮らしていましたが、とりあえず後500年ぐらい様子を見ることにしました。
確かにみんな幸せに暮らしていたのですが、他人の幸せを妬んだり、他人の物を盗んだりする者が出てきました。
みんなお互いが信用できなくなり、外に出てこなくなりました。昼でも夜のようになってしまいました。
アドニスという男が、「これは何とかせねばならぬ」と立ちあがりました。
町に出て、「元のように明るい町にするために、みんなで話しあおう」と呼びかけました。
集会場所になった公民館には、最初は誰も来ませんでしたが、毎日呼びかけると、ようやく10人ぐらいが集まるようになりました。
最初は、アドニスの話を聞いても自分のことをだけ考えていればいいという者が多かったのですが、神様はどうしてこの星を作ったかを討論するようになると、自分たちも何かしなければならないと考えるようになりました。
やがて、アドニスの活動は実を結び、多くの者が、町の掃除、消防、保育園など、町のための奉仕作業をするようになりました。そして、昔のように賑やかになりました。別の町も同じことをして、町には人が溢れました。
それを伝え聞いた神様がわざわざ地球に来ることになりました。
普通はそんなことをしないのですが、誰を地球に住まわせるかまだ結論が出ていなかったので感激したのです。
もちろん、アドニスは神様にあったことがありませんが、わざわざ自分に会いに来てくれることを聞いて飛び上がるほどうれしかったのです。特に一緒に住んでいる母親はたいそう喜びました。親孝行のアドニスも母親が喜んだことが何より親孝行だと思いました。
数日後、神様が降りてきました。アドニスは緊張して神様の前に出ました。
「この星はわしが手塩をかけて作った。だから、わしらの一族の後に誰に住まわせようかとずっと考えておった。
しかし、おまえのことを聞いて、おまえに似たものを作って、住まわせようと思う」それを聞いてアドニスは恐縮しました。
「おまえに褒美をやろう。何かほしいものはないか。何でも言え」
「何でもいいということなら、空に浮かぶ月がほしゅうございます」
「月がほしいのか。どうするのだ?」
「母親は働き者で、毎晩夜なべ仕事をし、朝は早くから畑に出ます。しかし、最近目が悪くなってきまして、大変困っております。そこで、夜になれば月を引っぱってきて、昼のようにしてやれば、仕事がはかどると思います」
「親孝行じゃな。しかし、あれはみんなで使うために作ったものじゃ。しかし、わしは何でも言えと言った。分かった。月をおまえにやろう。そのかわり、私利私欲では使わないようしてくれ。もしそんなことをしたら、おまえをば罰せなければならぬ」
「ありがとうございます。母親が使わないときはみんなのものです、もちろん」
「これはお前一代に限ることを忘れるな」そう言うと、神様は空に消えました。
アドニスは月を引っぱる方法を神様のお付きの者に聞きいて、毎晩のように月を自分の家の上にも引っぱってきました。
母親はたいそう喜んで仕事に精を出しました。
それを見ていた者が、「わしにも貸してくれないか」と言ってきました。
最初は断っていたのですが、お金を渡して、「一晩だけ」と頼んできました。
仕方なしにお金を受け取って貸しました。そうすると、次から次へと頼んで来る者が来ました。
お金も山のように溜まりました。そこで、母親のためにお城を立てて二人でお城に住むことにしました。母親のためにも、みんなのためにも役に立つにことをした満足感でいっぱいでした。
しかし、アドニスは突然お城からいなくなりました。どこに行ったか分かりませんが、一日中真っ暗な世界に閉じ込められているという噂が地球に広がっています。
神の一族が去った後、誰が地球に住むのかはまだ神様から連絡がないそうです。

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