空の上の物語(4)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(41)
「雲の上の物語」
「気持ちいいなあ、ここは!」ビニール傘が、体を開け閉めしながら叫びました。
それにつられて、他のものも、体をバタバタさせながら、大きな声を出しました。
「こんなすばらしい海は見たことないよ」
「まるで夢のようだわ。森に囲まれた家なんては初めて見た」
「そして、どこまでも続く平原!こんな世界があるなんて信じられない」
ここは、オーストラリアの空の上です。みんな初めての風景に興奮しています。
空にいる傘たちは、冬になると、日本の空は風が強くなるので、南のほうに行くのが習わしです。
もちろん、傘ですので、寒さなんか感じないのですが、金属部分が冷えるので、体の開け閉めがしにくくなるからです。そして、なにより風で吹きとばされたりするので疲れるのです。
例年なら、大体沖縄の上空にいるのですが、飛行機の騒音がひどいので、もっと南に行こうとなったのです。みんな若いので、今までの慣習を破るのに抵抗がなかったのでしょう。
一行は、ビニール傘、黒い傘、花柄の傘、そして、3人が自殺を助けた桜材の柄の傘や、前回喧嘩を仲裁した若い傘6人です。
みんな若いので、まだ冬の偏西風に乗る技術は身につけていませんが、それを支える勇気と好奇心は、その正しい咲き方を見せはじめています。
それに、今までは、じっと我慢をして春を待つのですが、最近は耐えるのにも限界があるほどの厳しさになったこともあります。
実際、空にいることをあきらめて、そのまま地上に落下するものも出てきました。
昔からいる傘は、「情けないものじゃ。これしきの寒さで、あきらめるなんて。わしらの若いときは、・・・」と言いますが、昔の傘は頑丈を第一に作られていますが、今は、おしゃれが優先されますから、多少割引をする必要があるかもしれません。
そのとき、「見かけない顔だな」という声が聞こえました。
みんなあたりを見まわしていると、上から10人近い傘が下りてきました。
今まで見たことがないような大きな傘もいます。それぞれ派手な絵柄です。
「寒いところから来ました。今年は、例年以上に厳しくて。ここはすばらしい場所ですね」みんなからリーダーと認められている黒い傘が答えました。
「そんなことはどうでもいい。誰の許可を取って、ここにいるんだと聞いているんだよ」
赤や緑の原色の傘が詰めよりました。
日本から来た傘は、緊張して、やりとりを聞いていました。
「きみたちは、いつもすばらしい景気を見ているんだね」ビニール傘は間に入りました。
「うるさい。ここはおれたちの場所だ。すぐ失せろ!」
ものすごい剣幕です。これでは、取りつく島がありません。それで、そこを離れようとしました。
背後で、「どうしたんだ?」という声がしました。振りかえると、先ほどの若者たちが、誰かに話していました。「そんな狭い心でどうする?すぐ謝ってこい」
すると、若者がこちらに飛んできました。「さっきはごめん。最近、他所から来て悶着を起こすものが多いので、つい興奮して」と謝りました。
背後から、若者を叱ったリーダーが来ました。紺色の無地の傘で、決して大きくはありませんが、堂々としています。
「失礼なことを言いましたな。どうぞ、ゆっくりしていってください」と言って、頭を下げました。
そして、「みんな聞け」と言いました。「空は誰のものでもないのだ。そして、空にいるということは、見捨てられたけど、懸命にここまでたどりついたという点では、みんな一緒なんだ」
そこまで言うと、「きみはビニールか。よくここまで上がってこられたなあ」と大きな声で聴きました。
「みんなが助けてくれるので、どうにか」ビニール傘はどぎまぎして答えました。
「ぜひゆっくりしていってくれたまえ。きみらのことを、ここにいる連中に教えたいんだ」
ビニール傘たちは、しばらくここにいることにしました。ただ、あまりはしゃいだりしないように気をつけるようにしました。
ある日、朝から寒い風が吹きはじめました。それも、日本の北風のような突風です。
これから、どんどんあったかくなっていくと聞いていたのに、どうしたことでしょう。
それから、1週間ほど立ったころ、ビニール傘たちがいるところにあわてて来るものがいました。
最初に出会った一人です。「きみたち、寒いところから来たのだろう。助けてほしいんだ」とあわてています。どうも、季節外れの風に苦しんでいるようです。急いで駆けつけました。
風で煽られてうまく体を保てないようです。上に行ったり、下に行ったり、また、どこかに吹きとばされたりするものもいます。みんな、「助けてくれ」と叫んでいます。
「怖がらなくていいよ。風のほうに向かって体を狭めるんだ。風の向きは変わるから、よく注意して」黒い傘は大きな声で言いました。
それでも、落ちるものがいると、ビニール傘たちがすばやく下に入り、体を支えました。
そして、オーストラリアの空にいる傘も、冷たい風に慣れることができました。
みんなで助けあえば、空はもっと楽しくなるということがわかったので、ビニール傘たちは、再会を約束して、オーストラリアを後にしました。