晋作の望み
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(8)
「晋作の望み」
秋も深まり、山は息を呑むような紅葉です。
晋作は、その風景を見ながら、「こんな美しい風景を一緒に見る友だちいたらなあ」と思いました。
「きれいだね」、「そうだね」というだけで、どんなに楽しいだろうと思ったのです。
どういうわけか、新作はみんなとうまく遊べません。別に喧嘩をするわけでないのですが、最初はおもしろくても、だんだんつまらなくなってしまうのです。
友だちも、それを感じて、もう帰ると言いだします。そして、その友だちは二度と晋作と遊ぼうとしないのです。
だから、いつも一人で遊ぶしかありません。それで、美しい山に一人で行きました。
山を三つほど越えると、なぜかそこだけが木が生えていない場所がありました。大きな木に囲まれているので、晋作しか知りません。
木の枝を折って、それに乗って滑るのです。その日も滑って遊びました。
いつもは禿山が急に狭くなる前に、顔を見せている岩を足で蹴って止まるのですが、落葉がたまっていて、止まろうとしても止まれません。
狭い上に、傾斜がきつくなり、どんどん進みます。まわりの風景も見えないほどの早さです。
晋作は、なすがままになっていましたが、やがて、突きでている岩に乗りあげて、空高く飛びだしてしまいました。
「おい、大丈夫か?」という声が耳に入りました。うーんという声とともに目を開けると、鹿が見えました。
誰がいるのだろうと、なんとかまわりを見回しましたが誰もいません。
「死んでいるのかと思って近づいたが、どうやら息をしていたので、近くの小川から水をもってきて、おまえにかけてやった」という声がしました。しかも、鹿が言っているのがわかりました。
鹿が人間の言葉をしゃべっている!と一瞬思いましたが、帰りたい一心で、ここはどこですかと聞きました。
「ここか?ここは熊の家だ」と答えました。
「熊!」
「大丈夫だ。話ぐらいは聞いてくれるから」鹿は、笑顔で言いました。
しばらくすると、猿や猪、鷲や鷹などの鳥なども集まってきました。驚いていると、その間から、大きな熊があらわれました。うわさでは聞いていましたが、こんな大きな熊は見たことありません。大人の背丈の倍はあるでしょう。
逃げようと思いましたが、熊が、「おい、人間の子供、どうしたんだ?」と聞きました。
地響きがするぐらいの太い声です。
晋作は、みんなが人間の言葉をしゃべるので、何かなんだかわからなくなりましたが、自分に起きたことを話しました。
熊は、話を聞くと、「ちょうどよかったわい。もうすぐ冬眠をするので、腹一杯の食べものがいる。
探して、腹一杯にならなければ、おまえをいただくことにする。それまで、ここで怪我をなおしておけ。新鮮なほうがうまいからな」と言いました。
新作はぶるぶる震えました。
熊は、驚かせすぎたと思ったのか、「ところで、おまえの夢はなんじゃ」とやさしく聞きました。
晋作はしばらく考えていましたが、「こんなきれいな風景をいっしょに見る友だちがほしいです」と小さな声で答えました。
熊は、なんだかがっかりして言いました。「そんなことか。それなら、ここにいるものと友だちになればいい。しかし、『友だちになってください』とちゃんと頼みのじゃよ」
そして、「最近は山にいるものだけでなく、人間でも、そんなこと言うやつがいるのだな」と独り言のように言うと、どこかへ出ていきました。
すると、ものすごい数の動物が、穴から出てきました。ウサギやふくろう、ヘビもいましたし、山にいない猫や犬、牛、馬、羊などもいました。
「きみも、友だちがいなくてさびしかったんだね。ぼくらもそうだ」
みんな口々にそう言うと、「友だちになろう」、「友だちになろう」と話しかけてきました。
晋作も、「友だちになろう」と叫びました。
それから、毎日、みんなと遊びました。しかも、次から次へと動物が来ました。さすがに人間はいませんでしたが。
晋作は、父や母が心配しているのでないか、あるいは、どんぐりや茎などが少なかったら、熊に食べられるのでないかと思いましたが、みんなと遊ぶのがおもしろくて、そんなことはすぐに忘れました。
熊が帰ってきましたが、みんながあまりに楽しそうなので、誰一人食べることなく、さっさと冬眠しました。
冬になっても遊びました。ようやく春になると、自分の家に帰るものが出てきました。
別に熊が怖いのではなく、「友だちになろう」と言えば、友だちはすぐにできることがわかったからです。
もっとわかったことは、自分の望みがかなっても、それに深入りしすぎると、みんなに迷惑がかかることもあるということなのです。