プロファイラー

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(124)
「プロファイラー」
「ここはどこだ?」男は目を開けると、すぐにそう思いました。どこかをさまよっている夢を見ていたので、それがすぐに頭に浮かんだのです。
しかし、まだ夢の中のはずなので、夢でそう言っているだけだと別の自分が考えました。
あたりを見渡しました。向こうには山が見えるけれど、自分が倒れているのは砂浜のようでもある。それに、潮風のにおいがする。
山の中をさまよっていたようだったが、ほんとは船で遭難していたのか。夢というやつはすぐに変わるからな。
もうすぐ妻や子供が、「パパ、早く起きて」と起こしてくれるだろう。確か昨晩は、「明日いつもより1時間早く起こしてくれ。早朝会議があるから。サマータイムなんてくそくらえだ」とか言っていたような気がする。
まあ、早く仕事が終われば、みんなをレストランに連れていってやるとするか。みんな喜ぶだろうな。
そんなことを考えていると、「ご機嫌ですね」という声が聞こえました。目を開けると、二人の男が見下ろしていました。一人は50代ぐらいで、もう一人は20代の若者です。
「誰だ!」
「まあまあ。落ち着いて」
「みんな苦そうな顔をしているものだが、きみは笑顔さえ見せている」
「急なことでしたからね」若い男が相槌を打ちました。
「おれは、まだ夢を見ているのか」男は自問しました。
「夢ではありませんよ。きみは、今日の朝方心臓発作で死んだんですよ」
「いやな夢だ。早く起きなくては」
「夢ではない。きみは死んだ。でも新しく生きるチャンスはある」
「でも、ぼくには妻子がいるんだ」
「しつこいな。きみは死んでいる」
「ここはあの世か」男は、半身を起こして、あたりを見ました。
「あの世ではない。ここはこの世だ。きみがいたのがあの世だ」
男は合点がいかないようようでしたが、ようやく。「ぼくは死んだのですね」と答えました。「確かに妻や子供が、パパ、パパと呼んでいるとき、体がすっと上がりましたから。窓から外に出るとき、自分がどうなっているのか興味がわきました」
「さすが優秀な科学者だ。どんなときも客観性を持ちつづけている」
「なぜ私のことを知っている」
「私たちはこの世のプロファイラーだ。こっちは見習い。よろしく」年配のプロファイラーが挨拶をすると、若い見習いは早速実務に取りかかりました。
「あなたはペコペコして生きるぐらいなら、死んだほうがましだと思ったことがありますね。ほんとは大学に残れなかったが、企業に勤めることができてほっとしていたのに」
男は黙っていた。「黙っていてもかまいませんが、チャンスの選択肢はどんどん少なくなりますよ」
「子供が小さいので、もう一度あの世に戻ることはできませんかね」男は別のことを聞きました。
「それはできません。あなたの番号はすでに廃番になっていますから」
「番号がついていたのか」
「そうです。3万年前ごろから、一人一人に番号をつけて言動を管理するシステムになっています。そうでなくては、あなたはここで5000年ぐらい待たなくてはなりませんよ」
「あの世に戻れないのならどうしたらいいのか。もう死んでいるのに」
「ここで生きられる」男は頭が混乱したようで、言葉が出ません。
「きみは誰かの子供として生まれる。もちろんあの世のことはおぼえていない。それがいやなら、あの世のことを思いだしながら、ここで永劫さまようだけだ」
数日後、男はここで生まれかわることを決めました。
見習いがプロファイラーの資格を取るのは、100年間に10人の死者のレポートが必要なので、先輩のアドバイスを受けて、この男を最初のサンプルに選びました。
プロファイラーに受かるのは受験者の3%ぐらいですが、この男は単純なのでリポートが書きやすいと判断したからです。
男は今度も優秀な能力を持っていました。やがて、あの世と同じように科学者になりました。
「今度はどうなるかな?」先輩が言いました。
数年後、男は世界的に注目される科学者になりました。しかし、ライバルが気になってしかたなく、自分の研究がおろそかになりました。
「また死にたいと考えているそうです」
「他のサンプルより注意しておくのだ」
「家庭環境も遺伝子もまったくちがいますから、同じことにはならないと思いますが」
しかし、男は自殺しました。
先輩は、「遺伝子を変えない場合のサンプルと比較するのも、レポート採点者に好印象を与える」と教えました。
自分が担当する見習いに、なんとかプロファイラーの資格を取らしたいと思っていたからです。すでに10回落ちているのです。

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