ピノールの一生(7)
2017/05/29
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ピノールの一生」(7)
モイラの「緊急装置」から出るにおいは確かに薄くなってきました。ピノールには大昔のロボットですから、感度を上げるスイッチがついていませんから、これ以上追跡することができません。
しかも、その交差点は三つの道に分かれており、どこに行ったかわかりません。気温は60℃を超えており、モイラの行方を聞こうとしても、どこにも人間は歩いていません。
遠くに人影が見えると急いで近づきましたが、案の定、ロボットばかりで、ピノールが声をかけると、慌てて逃げるか無視して通りすぎます。みんな、「こんな古臭いロボットはおれたちの恥だ」と言わんばかりです。
ピノールが立ちつくしていると、急ブレーキの音がして、車が止まりました。
すると運転席の窓が開いて、「どうしたんだ?道に迷ったのか」という声が聞こえました。ゼペールじいさんぐらいの老人です。「人を探しているのです。ロボット仲間ですが」ピノールは、もしかしてと思って答えました。
「いや、見かけないな。しかし、悪いことをする連中がいるものだな」と同情はしてくれました。
助手席にいた子供が、「おじいちゃん、この人は誰なの?」と聞きました。
「この人はロボットで、おじいちゃんは、昔教科書で見たことがある。大昔は差別されていたようだが、人間のためによくがんばってくれたそうだ。まさか30世紀に実際に動いているのを見るとはな!」と答えました、
ピノールは、「ありがとうざいました」と言って離れようとしました。「待ちなさい。この道は3つに分かれているが、まっすぐ行くと都心に行く。左が山、右が海に出る。山には空港、海には港がある。乗せてやりたいが、この車も古いのでな」老人は、そう言うと、猛スピードで走りさりました。確かに古い車は高温では危険なのです。
ピノールは、ケイロンの言動を思いだそうとしました。モイラによれば、「どこかの島で一緒に暮らそう」と言っていたそうだ。しかも、ぼくが追いつめても、必ず海が見える場所にいた。
しかし、海に行くとして、飛行機では審査が厳しいし、あれだけの家来の旅費も払えないだろう。
船に乗るのにちがいない。ピノールは、右の道を選びました。後は船に間にあうかどうかだ。ピノールは急ぎに急ぎました。
ようやく海が見えてきました。大きな船が浮かんでいます。どうも左側に港があるようです。さらに急ぎました。
白くて大きい建物が見えてきました。船も止まっています。車がそれに吸いこまれるように入ります。ここでも、人間は車のまま乗船するのです。
ピノールは受付で、「友だちとはぐれてしまいました。どの船に乗ったかわかりませんか」と聞きました。
歩いて乗るのはロボットぐらいですから、受付は記憶してくれていました。「確かブリーズ島に行ったと思うわ。でも、もう出たわよ」、「そうでしたか。次の船は何時ですか」、「後3時間後よ。それも、避暑客が多いからもうすぐ売り切れになるかもしれないよ」、「乗ります。せっかく休暇を取りましたから」ピノールは、ゼペールじいさんが用意してくれた身分証明書を見せました。
切符を買ってから、ずっと待合室にいました。ロボットですから、気温が何度でも暑くないのですが、潮風に当たらないようにするためです。もし錆びてきたら大変なことになるからです。
ようやく船が着いて、乗りこむことができました。ここから、ブリーズ島まで30時間かかるようですから、しばらくゆっくりできます。金属疲労を避けなければならないのです。
その間に、ゼペールじいさんとモイラの両親に今の状況を説明する手紙を書きました。
手紙は定期的に荷物を運んでくるヘリコプターが持っていてくれます。避暑に行く人間は、こんな古臭い方法を好むのです。ピノールは他に伝える方法がありませんでしたが。
30分でブリーズ島に着くという放送がありました。ピノールは立ちあがりましたが、体からギシギシという音がしてきました。