ピノールの一生(23)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(133)
「ピノールの一生」(23)
ボートに乗ったピノールと相棒、そして、それを押すクジラの親子は陸をめざして進みました。
ピノールと相棒は寝ころんで話をしました。ロボットですから疲れることはないのですが、
ピノールは片足なのと、塩を含んだ風を避けるためにそうしているのです。
「よかったなあ。これで家族が助けあっていくだろう」ピノールが言いました。
「長男の顔が立ったな。でも、あんなことになって、相手も逃げるか向ってくるかしないで、よく助けてくれたものだ」相棒も相槌を打ちました。
「相手が困っているので、みんなで助けたのだろう。人間の場合もそうだとゼペールじいさんに聞いたことがある。ただ、人間の場合は、打算的な考えが邪魔をすることもあるそうだ」
「なるほど。それなら、人間の知能が組みこまれているぼくらロボットも、無我夢中で誰かを助けることがあるんだ。しかも、財産や名誉をほしがることもないもんな」
「そうだ。いつか、人間はぼくらを認めるようになる。今は誰かの所有物だという証明がないと捕まるけど」
「陸に上がっても邪魔が入ると思うけど、よろしくな」
「こちらこそ。きみがぼくをスクラップ船から助けてくれ、しかも仲間になってくれたのだから、ぼくがお礼を言うほうだ」
「いやいや、ぼくは、溶鉱炉で溶かされる運命だったのだから、きみがぼくの命の恩人さ」
そのとき、クジラのパパが、「向こうに船が止まっているんだ。こちらを見ているような気がする」と叫びました。
二人は飛び起きて、前を見ました。確かに前方を塞ぐように止まっています。よく見ると、手を振っているようです。
「どうしたのだろう?」相棒が聞きました。
「どうも、クジラがいるので興奮しているようだ」
クジラのパパは、「それなら、もっと近づこう。きみらを助けてくれるかもしれないから」
「えー!大丈夫ですか。敵意のあるニンゲンかも知れない」相棒が叫びました。
「一か八かだ。ゆっくりお願いします」
クジラの親子はボートを押しながらさらに船に近づきました。歓声が聞こえてきました。確かに4,5人の子供が手を振ったり飛び上がったりしているのが見えます。それに10人近い大人も、同じように叫んだりこちらを指さしたりしています。
10メートル近くまで近づきました。すると、ピノールが立ちあがりました。
船にいた子供や大人や子供は動きを止めました。クジラがボートを押しているのにびっくりしていたのに、さらにボートに積まれていた物が立ちあがり、さらにさらに何か言いはじめたのですから。
「みなさーん。驚かせて申しわけありません。実はぼくたち二人はロボットです。ピノールという名前です。ぼくは、技術者のゼペールじいさんに作られて、相棒は昔工場で働いていました。古くなったのでスクラップにされるところでした。そういう理由で、二人とも証明書ありません。
ある事情で生まれ故郷に帰るところですが船から落ちてしまいました。ちょうどクジラの親子に助けられました。何とか助けていただけませんか。迷惑をかけませんから」
船にいた白いひげを生やした年配の人間が、「よかろう。船に乗りたまえ」と答えました。
二人は、クジラにお礼を言いました。「今までありがとうございました。これでなんとか陸に上がれそうです」
「うまくいけばいいがな」パパは少し心配そうです。
「ケイロンたちをやっつけたら、必ず戻ってきてよ」子供は突然の別れに流しながら言いました。
「約束するよ。ゼペールじいさんに錆びないようにしてもらってから帰ってくるから」
二人は、船から下りてきたロープを伝って船に上がりました。
船は動きだしました。クジラの親子は動かないで見送ってくれました。
みんな二人のまわりに集まってきました。白いひげの老人は、「それにしてもきみは錆びだらけだ。どうしたんだ?」と聞きました。
ピノールは事情を話しました。「よし分かった。それなら、錆びを落としてやろう」とみんなでオイルを使って体を磨いてくれました。いつのまにかピカピカになって、鏡のように人間を映しました。そして、片足のピノールのために老人の杖を貸してくれました。
子供たちは、「乾杯しよう!」と叫びましたが、ロボットは食べることも飲むことも必要ないことが分かって大笑いしました。
ピノールと相棒も子供たちの笑顔を見ながら、これでモイラを助けることができると思いました。

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