ピノールの一生(20)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(130)
「ピノールの一生」(20)
ピノールはみんなに感謝しました。例のシャチはうれしそうでした。ピノールが自分を守ってくれなかったら、まちがいなく襲われていたからです。もう泳ぐことができないほど弱っていたからです。
しかし、ピノールがボートの上に乗せられると、体からピーピーという警告音が出て、そのまま体を動かすこともしゃべることもできなくなってしまいました。錆びが体の外も中も覆いつくしてしまったからです。
相棒は、「これはまずいぞ」と思いましたが、シャチに言いました。「ピノールを助けてくれてありがとう。後はぼくらがするから、きみは早く家族や友だちが待っている場所に帰りたまえ」
シャチは、「ほんとに大丈夫か?」というような顔しましたので、相棒は、「大丈夫だよ。ロボットは死なないんだ。部品を変えたら、また元気になるよ」
シャチは帰りました。相棒はクジラに頼みました。「あなたたちの油をいただけませんか。それで体の錆を取ったり、内部の機械をスムーズに動くようにしたいのです」
「わかりました」クジラの父親は、どこかへ行きましたが、しばらくして帰ってきました。しかし、胸のところから血が流れています。
「どうしたんですか!」相棒は驚きました。
「なーに。油を出すために海の下にある岩に体をぶつけました」
「そこまでしてくれたのですか。申しわけありません」
「いやいや、わしらは、油も血もありあまっていますからね」と笑顔で答えました。
相棒は毎日その油でピノールの体をこすりました。それから、体を開けて、錆びがついている部分を取りだしては、こちらも丁寧に錆びを取りました。どうしようもない部品は、自分の部品を入れました。
やがて、体の中から、ピーという音がしました。「ピノール、うまくいきそうだぞ」相棒はピノールの体を揺すりました。
そのとき、首が妙な動きをしました。首がぐらぐらなのです。「あっ、これは!」
「どうかしました?」クジラが聞きました。「首のところが折れそうになっているようです。折れたら体を動かすことはできない」
相棒が、「しっかり括れるものがあればいのですが」と言いました。「いいことを思いついた。少し待っていてください」クジラの父親はまたどこかに行きました。
相棒は、息子のクジラに、「きみのパパはすごいね」と言いました。
「パパは、ピノールがぼくを助けてくれたことをとても感謝しているんだ。だから、ピノールを助けるためならどんなことでもするつもりだ」
今度は、数日後クジラの父親は帰ってきました。別に変った様子はありませんでしたが、大きな口を開けると、何やら細いものが出てきました。「これはクジラのひげです。わしらにはないので、ひげのある友だちに事情を話してもらってきました」と言いました。
「これは丈夫そうですね」相棒は、いつも自分の体に入れているドライバーで、ピノールの首に何カ所も穴を開けました。
そして、クジラのひげでしっかり括りました。これで、しばらくは大丈夫でしょう。
回線をつないでから、「ピノール!」と声をかけました。ピノールは目を開けました。
「ピノール、気がついたか!」相棒もクジラの親子もほっとしました。
「ぼくはどうしたんだ!」ピノールは状況がよく呑みこめないようでした。相棒は事情を話しました。
「また世話になってしまったな」ピノールは申しわけなさそうに言いました。
「何を言っている。みんなきみの役に立つのがうれしいのさ」
「ありがとう。今度はぼくがみんなの役に立つよ」
そのとき、突然、大きな雷が響きました。やがて、空が暗くなったかと思うと、激しい雨が降りはじめました。今度は稲光がその暗闇を一瞬に消します。
「すごい雨だ。雨は心配ないけど、雷が落ちるとまずい」ピノールは相棒に言いました。
「海には高いものがないからな。それじゃ、落ちても大丈夫のようにボートの下にいよう」
相棒は、ピノールの体に、クジラの油を塗りました。そして、2人で海に入って、ボートの下に逃げました。