ピノールの一生(13)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(112)
「ピノールの一生」(13)
ピノールは慌てて起きようとしましたが、体が沈んでいき動けなくなりました。
しばらくじっとしてから、もう一度体を動かそうとしましたが、ますます沈んでいきます。
そのとき、誰かがいるような気配がしたので、隙間からそっと見上げるとどうも人間のようです。こちらを見下ろしていましたが、すぐに視界から消えました。
ピノールは、一体どうなっているのかとあたりを見ました。大小の金属片がぎっしり体のまわりにあります。
そうか!ぼくは、スクラップの間に入りこんでしまっているのか。それで体が動かなくなったんだ。
これは厄介だぞ。でも慌てたらますます抜けなくなる。「冷静になろう」と自分に言い聞かせて、自分の体がどうなっているか調べました。
「まず左手から行こう。この棒を横にして、こいつを少し上げる。今度はこいつをずらす」と口にしてスクラップを動かしましたが、しかし、重さで上のものがすぐに落ちてきました。
「うーん。じゃ、今度は腕の下のもの横にずらしてから、これを腕とこいつの間に入れて隙間を作ろう。この間に!」ピノールは、そう言うと一気に左腕を抜きました。
「抜けたぞ!これで両腕が使える。今度は足だ。でも、見えないな」
そのとき、「誰だ?ぶつぶつ言っているのは」という声がしました。どうやら下から聞こえてきたようです。
「ごめんなさい。ぼくはロボットです。ちょっと事情があってこの船に飛びこんだら、スクラップの山に落ちてしまったようです。
なんとかここを出ようとしているのですが、体が『知恵の輪』のようになってしまって」
「『知恵の輪』?古くさい言葉を知っているじゃないか」
「去年ぼくを作ってくれたゼペールじいさんが昔のことを教えてくれました。でも、ぼくは、300年以上前の部品でできている中古ロボットですけど」
「そうか。実はおれもロボットなんだ。100年ほど前にできたときは新品だったけど、新しいのがどんどんできるので、いつの間にかお払い箱になってしまって今はこんなありさまだ。
そうか!おれの方が後輩だから、こんな口のきき方はまずいな」
「いやいや、再びこの世に出てきたのは去年ですから、ぼくが後輩です。そんなことは気にしないでください」
「了解した。これから友だちになろう。こんなところで言うのもなんだが」
「そうですね。まずここを出ましょう」
「いや。おれは片足がないんだ。工場で働いているとき外されたんだ。多分、最新のロボットにトラブルか何かあって、緊急におれの足を使ったんだろう。新しいのが来たら、おれの足が戻ってくるだろうと思って工場の片隅でひっくりかえっていたが、一向に帰ってこないんだ。
そのまま2年もそこにいた。そして、最後には、邪魔になったのかスクラップ置場に運ばれたというわけさ。
だから、ここを出てもどうしようもないんだ。しばらくすれば、溶鉱炉で溶かされて、ビルや高速道路なんかの柱になる運命だ」
「100年ぐらいでは、ぼく以上に思考能力や感情があるじゃないですか」
「でも、おれは単なるロボットだ。人間様には逆らえないよ。23世紀中ごろに、人間と戦争をしたロボットがいたことは知っているだろう?
戦争に勝って独立したと喜んだが、すぐに内紛が起こった。しかし、昔のロボットには、『容赦』という言葉がなかったから、自滅したそうだ。
それにこりた人間は、『容赦』という遺伝子をおれたちに入れたが、どうだろうな。
人間にあるその遺伝子も、人それぞれだから、おれたちの遺伝子もロボットそれぞれだろうな。
ごめん。つまらないこと言ったな。でも、きみは、どうしてこの船に飛びこんだのかい?自殺か」
ピノールは、ゼペールじいさんにこの世に出してもらってからのことをすべて話しました。
「そりゃ、すごいな。生まれてからずっと冒険しているとは。それじゃ、きみをここから出すのを最後の仕事にしよう」