ピノールの一生(12)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(111)
「ピノールの一生」(12)
ケイロンの家来に追いかけられた、正確にいうとモイラを船に乗せて逃がすためにわざと追いかけられたピノールは、岸壁でこけてそのまま海に落ちてしまいました。
浮かびあがろうと体をばたばたさせましたが、重さでどうにもなりません。とうとう海底まで落ちてしまいました。海底の砂に足を取られながらも、ようやく体を起こしましたが、海底は真っ暗で何も見えません。そこで、目を夜間モードにして、あたりを見ました。
しかし、魚が泳いでいるのが見えるぐらいで、何にも見えません。
早く海から出なければ錆びてしまうと思うと焦ってきましたが、「ピノール。落ちつけ」と自分に言いきませました。
自分を物置にあった廃品で作ってくれたゼペールおじいさんは、「おまえは数百年前の部品でできているから、最新のロボットに勝てっこない。しかし、頭脳は、使い方では負けていない。だから、どんなときでもまず落ちついて頭を使え」と言ってくれたので、それを守ることにしているのです。
しかし、海水は待ったなしで襲ってきます。「落ちつけ、落ちつけ」
「そうだ。落ちたとき、ばたばたしたから岸から離れたかもしれない。しかし、100メートルも離れていないはずだ。それなら岸を探そう」
ピノールは、大きな岩を起点に四方を歩きました。3回目に岸にぶつかりました。
「やったぞ!ここを登っていけばいいんだ」最初は登山のように岩につかまりながら上がりましたが、途中からセメントになって掴むものがありません。
「困ったぞ」ライトを照らしてあたりを見ると、暗闇を少し薄れてきたからか、大きなものがありました。
「船だ!」錨を下していれから何とかなるかもしれない」ピノールは岸に足をかけてその反動で船のほうに勢いよく泳ぎました。
海底近くまで落ちてしまいましたが、なんとか鎖をつかまえました。そして、鎖を伝ってどんどん上に向かいました。
しかし、錨を収める穴からデッキまでは10メートルはあります。しかも、まだ明るいので、どうしようもありません。
「いずれ、船は接岸するだろう。そのとき岸に上がればいいんだ」と思って、体を海面から出して待つことにしました。
2時間ほどすると錨が上がりはじめました。「やったぞ!」と思っていると、船は、なんと岸壁と反対のほうに動きはじめました。つまり港を出ていくのです。ピノールは慌てましたが、どうすることもできません。
「大きな海に出てしまえばチャンスは少なくなる。なるべく早く行動しなくてはならない」と考えて、あたりを必死で見ました。
港を出てからしばらく行くと、何か浮いています。港に入るための目印のようです。「あそこなら隠れることができる」そう思って、船が横を通ったとき、海に飛びこみました。そして、そちらをめざしました。
また沈みかけましたが、浮いているものの下には、海底とつながっているのか長い鎖があり、それにつかまることができました。
そして、ようやくその上に登ることができました。「よし、とりあえずはうまくいった。しかし、ここは目立つ。夜になるまで待とう」と自分に言って横になりました。
きれいな青空が広がっています。水平線の向こうには入道雲がわきあがっています。
とりあえずモイラを逃がすことができた。もうすぐパパとママに会えることができるだろう。モイラの笑顔が浮かびました。
しかし、ケイロンたちはこのまま黙っていないだろう。ぼくも早く帰って助けなくては。もちろんゼペールじいさんにも会いたい。
ようやく日が陰りはじめると、星が光りはじめました。灯台のライトもつきました。
「よし!」ピノールは立ちあがって海の様子を見ました。やがて、港に向かって平らな船が近づいてきました。
「あれなら、デッキに上れるぞ」ピノールは、横に来る前に海に飛びこみました。そして、その船に近づくと、船から出ているロープのようなものにつかまりデッキに上がりました。誰が来たので、あわてて下に飛びおりると、ガシャンという大きな音がしました。

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