キツネの恩返し

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(109)

「キツネの恩返し」
夕方から雪が降ってきたので、朝になれば、今の雪の上に降りつもって、外に遊びに行けないようになっているかもしれません。
それでも、お母さんは夜なべをしています。お父さんは早く死んでしまったので、羽織の紐を作ってお梅を育ててくれているのです。
ときどきは手伝うのですが、むずかしくて、お母さんを助けるまでにはいきません。
それより、今夜は寒いからは早く寝るようにとお母さんから言われたので、薄い布団にくるまって寝ようとしました。
突然、キャーンという叫び声が響きました。あれは何だろう。犬の鳴き声に似ているけど、犬とはちがう。
しかし、一回聞こえただけで静まりかえっています。あれは何の声で、どうしたんだろうと考えていると、眠れなくなりました。
そこで、囲炉裏のそばで仕事をしている母親のそばまで生き、「お母さん、さっきの泣き声は何だろう」と聞きました。
「まあ、お梅。まだ起きていたの。早く寝ないと風邪をひいてしまいますよ」と心配しました。
「さっきの声のことを考えていると、目が冴えてきちゃって」
「困った子だね。あれはキツネの声です。多分、罠か何かにひっかかったのでしょう。あなたのおじいさんは村一番の猟師でしたから、お母さんはよく聞きました。それじゃ、早くお布団に入りなさい」
お梅は、布団の中で、今頃は家族が探しているかもしれないわ。早く助かりますようにとお祈りをしながら眠りにつきました。
翌朝早く雨戸を開けようとしましたが、開けられません。ひょっとしてと思って、出入り口の戸を開けると、すっと開きました。そとに出ると、大人の背丈よりも高い雪が積もっていました。
お母さんは、すでに起きていて、出入りする場所の雪は取りのぞいてくれていたのです。
横に回ってみると、お母さんは雪をせっせと運んでいます。
お梅は、「お母さん、おはよう。わたしも手伝います」と声をかけました。「おはよう。わたしが雪をここに入れるから、おまえは、畑のほうに運んでくれるかい」
「わかりました」
「一段落すれば朝ごはんにしましょう」
二人は、お日様の光を浴びながら働いたために汗びっしょりになりました。
庇(ひさし)の下の雪も取りのぞいたので、2人は朝ご飯を食べました。
それから、お母さんは仕事をはじめたので、お梅はこれから何をしようかと考えたとき、夕べの叫び声を思いだしました。
あのキツネは大丈夫だったかなと思うと、それを確かめたくてたまらなくなりました。
しかし、裏山にも雪が積もっているので行けそうにありません。
「今日は大人だって行かないわ。それなら、今日行かなくっちゃ」お梅は、また居ても立ってもおれなくなりました。
そこで、お母さんに、「遊びに行ってきます」と声をかけました。「気をつけて行くんだよ」と返事しましたが、まさかこの雪で山には行かないだろうと思いました。
お梅は、足には「かんじき」を履いて、手には竹の杖を持って裏山に向かいました。
山はきらきら輝いています。ときおり枝から落ちる雪が大きな音を立てます。
迷ってしまえばたいへんですから、用心しながら進みました。しかし、それらしきものはありません。
「もう助かったかもしれないわ。それじゃ帰りましょう」下りはじめたとき、どこからかクーン、クーンという声がしました。
お梅は声のほうに向かいました。なかなか見つかりません。しかし、まちがいなく声が聞こえます。どうも雪の下から聞こえているようです。
ここだわ!お梅は必死で雪を掘りました。いました!キツネです。大きな木の下だったので、あまり積もらなかったのが幸いでした。
子キツネはお梅のほうを見ましたが、ぐったりしています。
「かわいそうに。すぐに助けるからね」とキツネを持ちあげようとしましたが、足に絡みついた罠が外れません。
「困ったわ。そうだ!罠のことをよく知っている源次郎を連れてこよう」と叫びました。源次郎はお梅より3才年上ですが、気がやさしいので、女の子には人気があります。
源次郎は家にいました。お梅は、「すぐ来て」と頼みました。源次郎はついてきましたが、お梅が山のほうに向かうと、「どうしたんだ?」と聞きました。
お梅は、キツネが罠にひっかかっているので助けてほしいと言いました。
「でも、それは大人がしていることだよ。そんなことをしたら泥棒になるぜ」と答えました。
「まあ、そうだけど、これっきりにするからお願い」と頼みました。
源次郎は、仕方がないという顔で承諾してくれました。そして、罠を外してくれました。
数日後、お母さんの加減がおかしくなりました。体は沸騰するほど熱くなり、声をかけても、返事をしません。
毎日夜なべをする生活が続いた上に、大雪の日の仕事が応えたかもしれません。
お母さんはゆっくり休んだらよくなると思うが、仕事は、確か明日の昼に取りにくるようなことを言っていたわ。
千本ぐらい残っているようだ。とにかくわたしができるだけやろう。お梅は、朝から何も食べないで、内職をはじめました。しかし、夕方になる暗くなって手元が見えません。
寒いっですが雨戸と障子を取り払って、仕事を続けました。
しかし、夜になるとまったく見えません。「困ったわ」そう言ったとき、「わたしたちに手伝わせてください」という声がしました。
よく見るとキツネです。「どうしたの?道に迷ったの?しばらく休んでお行きなさい」と声をかけると、「わたしは先日あなたに助けられたキツネです。お礼を言いたいと思って家を探していたのですが、雨戸を閉めない家があるので、近づくとあなたでした」
「それはよかったわ。でも、今日はゆっくりお話しできないの」と今の状況を話しました。
「分かりました。明かりを持ってきます。それに、仲間もいますのでお役に立てると思います」と答えました。
姿が消えたかと思うと、しばらくすると、ものすごく明るい光が近づいてきました。
お梅が呆気にとられていると、そのまわりには、10頭ぐらいのキツネがついてきました。
先ほどのキツネが、「これは狐火です。特別な木が燃えているのです。でも、熱くありません。それに、腕に覚えのあるメギツネばかりですから、一度教えてもらったら、立派な紐を作ります」
お梅は要領を教えると、みんな黙々と仕事をはじめました。朝には、お母さんが作っていた千本と、キツネが助けてくれた千本の合計二千本が完成しました。
「ありがとう。これを知ったら、お母さんはどれほど喜ぶことか。みんなのお蔭です」と心からお礼を言いました。
「あなたにこんなことをいうのは何ですが、今でもあなたのおじいさんを怨んでいるものがいます。長老さえ、あなたを助けることはあいならんと反対しています。
でも、わたしの気持を理解して駆けつけてくれたものがここにいます。
あなたがお母さんを思う気持ちもそうでしょう。あなたが考える以上のことができるはずです。また、お会いしましょう」キツネたちは、晴れ晴れした表情で山に帰って行きました。

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