お梅(6)
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(187)
「お梅」(6)
お梅は、とにかくうさぎの子供が元気になったので早く帰ろうと思いました。
洞穴からは青空が見えています。今のうちです。「また来ます」と言って急いで帰りました。
おばあさんは無事に帰ってきたので喜びました。「さあここで温かいものを飲みなさい」と言ってくれました。
お梅は、「おばあさん。火鉢を探したのですが見つかりませんでした」とあやまりました。
「そんなものはどうでもいい。雪がとけたら、どこかから出てくるじゃろ」と答えました。「そんなことより早く温まれ」
お梅は、囲炉裏に当たって体を温めながらお餅を食べました。
そして、お礼を言ってから、「あばあさん。教えていただきたいことがあります」と言いました。
おばあさんは土間で藁(わら)仕事をしていましたが、手を休めてお梅のほうを向いたので、お梅は、「山に人間の子供が住んでいますか」と聞きました。
「いつじゃ?」
「今です」
「雪が積もっているぞ。生きていけると思うか?」
「無理だと思います」
「どうしてそんなことを聞くんじゃ?」
「気になったもので」
「何か見たのか?」
「山のほうで大きなものが動いていました」
「サルかイノシシじゃろ。大人でも冬は山に行かん」
「そうですね。でも、春になればどうですか?」
「春になれば山に行くものがおるじゃろが、山に住むようなものはおらぬ。
どうしてそんなことが気になるのじゃ?」
「前に山に子供が住んでいると聞いたことがあるのです」
おばあさんは、「そんな子供はおらぬ。今後そんなことを誰にも言ってはならぬぞ。誰も遊んでくれなくなる」いつもはやさしいおばあさんの顔が厳しくなりました。
お梅は、うさぎからもらった金色の玉を腰の巾着袋に入れていたのですが、それを見せるきっかけをなくしてしまいました。
それからしばらくの間はおばあさんの手伝いをしたり、寺小屋に行ったりしましたので洞穴には行けませんでしたが、毎日その球をながめていました。
またその球をくれた山に住んでいる人間の子供のことを考えていました。
手伝いや寺小屋がないときに洞穴に行ってみましたが、うさぎの親子はいません。どこへ行ってしまったのでしょう。
ようやく春らしい日差しになってきて、雪も少しずつとけはじめました。
お梅は、春が来たことを喜んでいる鳥の声を聞きながら洞穴に行きました。
誰もいません。しかし、元々一人で洞穴にいるのが好きなので、一人考えごとをしていました。
少しうとうとしていると、「お梅さん」という声が聞こました。お梅は、えっ!と叫んであたりを見ました。
足元に誰かいました。お梅は、「ママ!」と叫びました。
「お梅さん、久しぶりです。お梅さんに会いたかったのですが、子供たちに食べものをやらなくてはいけないので、他のお母さんたちとあちこち行っていたのです」と涙声で言いました。
「それは大変でした。坊やはどうですか?」
「あれから大きくなって、今じゃ私より大きくなりました」
「それはよかった。また会いたいです」
「今は私のことなど気にしないで、みんなと朝から晩まで遊んでいます」
「私もおばあさんのことをほっておいて遊んでいます。とにかくママが元気でよかった」
「こらからもここに来ます」
「そうですね。それとママに聞きたいことがあります」うさぎの母親はうなずきました。「金色の玉を持っていた子供の名前を知りたいのです」