お梅(5)

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(186)
「お梅」(5)
朴葉の中に入れた山桃の葉から青い汁が出てきたようです。火が弱くなると炭を入れて、さらに煮立てました。ぐつぐつという音がします。湯気もどんどん出てきました。
お梅は、濃い汁を見て、「出来上がったようね」と言いました。
「これが薬ですか?」うさぎの母親も興味津々に答えました。
「そうよ。これを患部に塗るの」お梅はそう言うと、持ってきた手ぬぐいを裂いて,まだ熱い汁に浸してから少し絞りました。
少し冷めたのを確かめてから、子供の右前足に巻きました。しかし、子供はびくともしないほどよく寝ています。
「手ぬぐいが乾燥したらまた濡らしてください」と母親に言いました。
「数日したら治るでしょう。でも、様子を見てください。雪が積もっているから、人間の子供たちは来ないから大丈夫よ」
「ありがとうございます」
「おばあさんが心配しているので帰ります。2,3日は家の手伝いがありますが、できるだけ早く来ます」お梅は雪が止んでいる間に帰ることにしました。
機織りなどの手伝いをして、三日後洞穴に行くと、入り口に動くものがいます。「お梅さ~ん」という声が聞こえてきました。
お梅は雪をかきわけて洞穴に急ぎました。向こうからも小さいものが向かってきます。
目の前に来ると、それが骨折していたうさぎだとわかりました。
「あなた。大丈夫!」お梅は大きな声で聞きました。
「お梅さんのおかげで治ったよ。前より早く走れるようになった。そうだ!みんな出てこい!」と大きな声を出しました。
すると、洞穴の横や上にいたものが動きだしてこちらに向かってきます。みんなうさぎです。
「みんな、こちらが話していたお梅さんだ。どんな病気や怪我でも治してくれるお医者さんだよ」
「まあ。大げさなこと言わないで。私はお医者さんではありません」お梅がそう言うと、友だちのうさぎは笑いながらお梅のまわりに集まってきました。
「ママはどこにいるの?」
「お梅さんに何かお礼をしたいと言って探しにいったよ」
「そんなことしなくてもいいのに」
そのとき、「お梅さん」という声が聞こえました。母親のうさぎです。
「息子さん、元気そうね」
「ありがとうございます。しばらく用心するようにと言っているのに、友だちが来ると、同じように走りまわっているのですよ。困ったものです」
「おなじようにじゃないよ。ぼくが一番走るのが早い」息子が不満そうに口を挟みました。
「友だちにもあまり走りまわらないように頼んで少し山のほうに行ってきました」そして、「これをもらってくださいませんか」とお梅に見せました。
それは金色に光った玉のようです。繭ぐらいの大きさです。しかも、半分だけです。紐を通すための穴もついています。
子供のうさぎやその友だち5、6匹が集まってきて、お梅が手にしているものを見ています。
「これを山で見つけたのですか?」お梅が聞きました。
母親のうさぎは少し言いにくそうに、「山で手に入れたと言えばそうですが、もらったものです」と言いました。
「でも、お梅さんのために探していると言ったら、これをくれたのです」
「誰がくれたのですか?」
「あなたと同じ人間の子供です」
「えっ!こんなに雪が積もっているのに子供が登っているのですか?」
「いいえ。山に住んでいます」
「まさか!」
子供がまた口を挟みました。「昔からいるよ。ぼくらが生まれる前からいるんだ」
「家に帰らないの?」
「山に住んでいるからどこにも帰らないよ」
「山に家があるんだもん」他のうさぎが言いました。
お梅は混乱しました。「親はいるの?」
「親はいないようです。数人の子供だけがいると聞きました。こんなに雪が積もっているのに、ここまで来ているとは思いもしませんでした」母親は知っているかぎりのことを話してくれました。
「この近くに住んでいるのですか?」
「いいえ。ここから三つ、四つ山を超えた山に住んでいるようです」
「ぼくらも、会ったのは数回ぐらいだよ」
お梅はさらに混乱してしまいました。

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