お茶

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(62)

「お茶」
昔々、あるところに、まわりの国と比べたらとても小さい国がありました。しかし、人々はやさしく、およそ、喧嘩などだれもしません。
日照りで収穫が少ないときは、みんなで分けあいます。でも、だれも仕事を怠けることなどありません。
仕事が終われば、広場に集まって、ダンスをしたり、お茶を飲んだりします。
こんな国になったのは、王様が人々の笑顔が大好きだからです。
人々も、王様が大好きですので、王様のために一生懸命働きます。そして、仕事が終われば、みんなで楽しい時間を過ごすのです。
まわりの大国は、あんなに小さな国なのに、どうして楽しいのだと不思議に思いました。それなら、いっそ自分のものにしようと攻めてくることがたびたびありました。
今度も、暗くなりはじめた時刻に、国の城壁から見張っていた兵士があわててお城に行き、「王様、たいへんです。かつてないほどの敵が集まりはじめています」と報告しました。
王様は、「またか。わが兵士に集まるように伝えてくれ」と命令しました。
これはいつもの儀式でした。訓練などせずに、王様が秘伝のお茶を飲ませてくれるのです。
不思議なことに、そのお茶を飲むと、どんなにお臆病な兵士でも、勇気が体中に充ちてきるのでした。ただ、人相も悪くなり、ちょっとしたことで喧嘩をしたくなるのです。
だから、見張りの兵士からの報告を聞きながら、お茶の量を調整しなければなりませんでした。これをまちがうと、戦いがはじまる前に、味方同士で喧嘩をしてしまいます。
「われらの兵士の10倍の兵士が国を取りかこんでいます!」
「よし、お茶をどんどん飲んでくれ」
兵士の士気は高まり、すぐに敵と戦いたいと思うようになりました。
「行くぞ!」将軍が号令をかけました。兵士たちは、闇の中を自分の陣地に急ぎました。
ビュー、ビューという音がしました。すでに石が飛んできているようです。
しばらくすると、「敵が入っているぞ!」という叫び声が起きました。すると、刀や槍が激しくぶつかる音が響きました。
この国の兵士たちの顔は鬼のようになり、目はぎらぎらと輝き、闇の中で動く敵の姿も見えるようになりました。ワーワーと叫ぶ声や刀や槍がぶつかる音は一段と大きくなりました。戦いは一晩中続きました。
そして、一夜明けると、敵の死体が累々と重なっているのが明らかになりました。10倍の敵に勝ったのです。
王様は喜んで、「ご苦労じゃった。お茶とケーキがあるぞ」と勇気ある兵士たちに声をかけました。
兵士たちは、手柄話をしながら、どんどんお茶を飲みました。そうすると、兵士の顔は、また無邪気な笑顔に戻りました。
戦争が終わると、よそからの行商人の往来が認められました。
日頃は、みんなやさしく、何でも買ってくれるので、行商人に人気がありました。
最近来るようになった薬の行商人が人々の話を聞いているとき、ピンと来たことがあります。
いつもにこにこしている人が、お茶を飲むと、形相が一変して、何も怖くなくなる。また別のお茶を飲むと、元に戻る・・・。
「それはどんなお茶ですか」と聞きました。
「日頃飲んでいるお茶はこれじゃ。しかし、戦いのときのお茶は少し苦い。しかし、今はない。お城で飲むから」と答えました。
薬の行商人は、それをもらって帰りました。それから、あらゆる野草で薬を作っては、よその国で、喧嘩をしている人に、それを飲ませるのです。
3年後、喧嘩の途中に、それを飲ませると、すぐに「わしが悪かった」と笑顔で謝るのです。
後は戦争のときのお茶です。やがて、その国で戦いがあるようなうわさを聞いた行商人は急いでその国に行き、仲よくなった兵士に、「少しお茶を持ってきてくれないか」と頼みました。
予想どおり戦い早くすんだので、すぐに国に行きました。そして、密かに持ちだしたお茶で、また研究をしました。
また3年後それにも成功したので、運びやすいように丸薬にしました。
近隣の国に行って、お茶を売りこみました。やがて、どこの国でも、「いくらでも買うから、絶対よそには売らないでくれ」と言って、言い値で買ってくれるようになりました。
行商人は大金持ちになりました。ただ、そのお茶を作るための野草はその国にしかありませんので、自分の家来をその国に行かせて、密かに持ちかえらせました。
やがて、不審な行動をしている家来を捕まえて、「何をしている?」と聞いた結果、すべてが明らかになりました。
それを聞いた王様は、最初怒りくるいましたが、「これは神のお考えだろう」と思うようになりました。そして、人々に命じて、その野草を根絶やしにしてしまいました。
それ以来、その国の人々だけでなく、すべての人間は、自分の感情は自分の責任だとなったようです。

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