見栄っぱり

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「見栄っぱり」
先週の日曜日、5年ごとの船舶免許の更新に、大阪の南港に行ってきた。
学校はフェリー乗り場の前にある。雪まじりの風が吹く寒い日やったけど、「さんふらわあ」(ひらがなやて)ゆうフェリーなんかが、車の出入り口をパカッと開いているので、よけい寒う感じたわ。
大型フェリーは、1日1便ぐらいしか出えへんから、待合室には、だあれもいてへん(ここで、沖縄へ逃げようとした市橋容疑者が捕まった)。
ぼくが好きやった船の出入りが見える食堂がなくなっていた(今は、コンビニなんかがあるからなあ)。
とにかく、ここは広いのに、人がいてへんから、淋しゅうなる(考えごとをしたかったら、桜やも紅葉やと客集めをする寺より、人けのない港がええ。船に急ぐ人を見るのも一興や)。
免許を取ったのは、「これからはマリンスポーツの時代や」と国が呼びかけたバブリーな時代やった。
ぼくも、青年実業家とちやはやされていたので、多少リッチなこともせんとと思うて、船やヘリコプターの勉強をしたわけや(結局、船もヘリコプターもよう買わんかった)。
講習の教本を見ていたら、不景気になって、プレジャーボートどころか漁船もどんどん少なくなっているようやで(中小企業のおっさんは遊ぶ金がないし、漁師は高齢化で仕事ができなくなったわけや)。
ぼくも、更新しても意味があるのかいなと思うことがあるけど、「ももクロ」なんかが、「おっさんも夢を持て」とゆうてくれるので、ブラジルへ移住した叔母さんがものすごい遺産を残してくれたら船を買うとゆう夢を忘れんように、更新だけでもしようと決めたわけや(ブラジルに行った親戚などいないけどな)。
とにかく、ぼくは、100人に聞いたら、103人がそうやとゆうぐらいの見栄っぱりなんや(3人は、関係ないのに入ってきた)。
この前、コピーしようとコンビニに行ったら、横にあるATMの前で、20前後のアベックがいた。
聞くとはなしに聞いていると、女の子が、「あんたに1万円渡したら、後2万円しか残らへんのやで」と、怒りを抑えた声が聞こえてきた。
男の子は、黙って聞いていたけど、ぼくは、えらいとこに来たなあと動揺した。
別に、ぼくが悪いわけやないからと言い聞かせて、コピーをしたけど、汗が出てきたわ。
「ごめんな。あんたらのおかげで、年金をもらっているけど、おっちゃんかて、あんたらのおじいさん、おばあさんのためにがんばってきたんやから」と心で言いわけしたやないか。
せやけど、コンビニを出てから、腹が立ってきた。「こら、おまえら、見栄ちゅうもんがないのか。そんな話、外でせえ。特に男、今からヒモか。ヒモなら、女に気持ちよう貢がせる工夫をせんかい。ばかもの」
人間は、見栄を忘れたらあかん。特に、ぼくのような志の低いもんは、見栄があるから、がんぼろうとなるんや(つまり、見栄は、生きるエネルギーになる。しかも、再生エネルギーや。90%以上は、物笑いの種やけどな)。
まだ、腹がおさまらん。「おっちゃんはな、今20年落ちの車に乗っているけど、向こうが見えているような短いトンネルの中に入っても、ライトをつけるんや。最近の車は、暗くなると、勝手につくやろ。
寒いときは、ハンチング帽を被るけど、電車の中では、時々脱ぐ。禿げ隠しと思われんようにな。
ケータイもそうやで。スマホは持ってへんけど、今は、2台持ち、3台持ちが増えているそうやから、それを逆手(さかて)にとって、『最近、ガラケーを使ってへんけど、どうやったかな』とゆうふうに、唯一のガラケーでメールを送る。これには演技がいる。つまり、見栄には知恵と演技力がいるのや。
しかも、見栄は、いつも危険にさらされている。今、歯医者で治療しているけど、カッコ悪いから、部分入れ歯をせんと治療を受けていた。
ところが、『別の場所の型を取るので、部分入れ歯を入れるように』と言われた。
いやな予感したけど、ポリデントをたっぷりつけた。
しかし、部分入れ歯が、UFOキャッチャーの人形にみたいに、型についていったやないか。
助手は、『取れました』と、指でつまんで渡してくれた(そう見えた)。
あのときほど恥ずかしい思いをしたことは近年ない。
おい、男、『そんなん慣れたはる』と思うたらあかん。心が傷ついたかどうかや。
ここで負けたら、身なりでも何でも、どうでもええわとなる。
見栄っぱりであるためには忍耐がいるんや。人生は、我慢すれば何とかなると誰かがゆうていたわ」

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