また鶴の恩返し
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(5)
「また鶴の恩返し」
昔、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。まず他人のことを心配するやさしい夫婦でした。
もちろん働き者で、毎日、朝から晩まで野良仕事に精を出し、野良仕事ができない冬は、籠を作っては、町に売りにいきました。
町と村の間には大きな山が3つもありますが、ある帰り道、雪が急に降ってきました。
前が見えなくなるほどの吹雪になったので、近くにあった小屋で様子を見ることにしました。
ようやく雪が小降りになったので、小屋を出ることにしました。早く帰らないとおばあさんが心配するからです。
胸近くまで積もった雪を掻きわけながら家路を急ぎました。しばらく行くと、物音一つしない山道に甲高い声が響きました。
どうも鶴の鳴き声のようです。しかも、苦しんでいるようです。そのまま通りすぎようとしましたが、さらに苦しそうに鳴きます。どうやら近くの林から聞こえてきます。
何とかしてやりたいと思いましたが、ここから道が急に狭くなり、しかも、すぐ横は崖になっていることを、おじいさんは知っていました。
しかし、大きな木を目印にして、崖に落ちないようにしながら、ますます苦しそうな声のほうに進みました。ようやく林にたどりつきました。
木が重なるように生えているので、雪がそんなに積もっていないことが幸いしました。
一羽の鶴がうずくまっているのが見えました。どうやら熊や鹿を取る罠にかかっているようです。
日頃、こんなところに鶴は来ないのですが、多分、大雪を避けるために避難して、災難に会ったのでしょう。
罠は、動けば動くほどきつくなる仕掛けですから、苦しんでいたのです。
おじいさんは、すぐに罠から鶴を助けてやりました。
すると、鶴は、木にぶつかり、ぶつかりしながら逃げていきました。
おじいさんは、いいことをしたと思って家路を急ぎました。
「おじいさん、遅かったね。心配していましたよ」おばあさんはほっとしました。
おじいさんは、鶴を助けたことを話しました。
おばあさんは、その話を聞き、「よう似た話を聞いたことがあります」と言いました。
「隣村の宗助どんのことじゃな。わしも、ちらっと思ったが、まさかそんな夢のようなことが二回も起きるはずないわ」とおじいさんは笑いました。
「そうですね」二人は、それから遅い晩ごはんの用意をしました。
そのとき、戸を叩く音がしました。おじいさんは、訝(いぶか)りながら戸を開けました。
すると、若い娘がぶるぶる震えながら立っていました。それを見たおじいさんは、何も聞かずに家に入れてやりました。
火に当たらせながら、話を聞くと、親戚の者が重い病気で、薬を届けにいくところだったが、先ほどの大雪で道に難渋しているとのことでした。
おじいさんは、「今晩は泊まっていきなされ」と言いましたが、おばあさんは少しあわてました。
実は、その日、籠は一つしか売れなかったので、おかずは1人分しか買えなかったのです。
それで、今晩は、一人分を二人で食べようと考えていたからです。
しかし、おじいさんは、娘に、全部食べるように言いました。
娘は、お二人はと聞きましたが、「わしらは先ほど食べたので、おまえが食べなさい。腹一杯食べると、早く元気になるぞ」とすすめました。おばあさんも頷きました。
朝、二人が起きてみると、暖かくて、いいにおいがします。娘に聞くと、「外で野草を取ってきて味噌汁を作り、また、芋なども炊きました」と答えました。
おじいさんとおばあさんは、顔を見合わせて、これも聞いたことがあると頷きました。
そして、娘は、「命を助けていただいたこと一生忘れません。恩返しをしたいので、しばらくここにおいてくれませんか」と頼みました。
おじいさんは、「それはいいが、おまえは薬を届けるところではないのか。まず、それを先にすませなさい」と言いました。
「小康状態だと聞いていますので、まずお二人にお礼をいたしたく思います。わたしが布を降りますので、それを町で売ってください」と譲りません。
「それはありがたい。でも、この村はとても貧乏で、飢饉も起きる。おまえが織った布をみんなにやりたいけど、どうじゃろ?」
「それは構いません。しかし、わたしが布を織っているところは絶対に見ないでください」と答えました。
数日後、それは、それは美しい布が出来上がりました。「これはすばらしい!太吉が喜ぶじゃろ」とおじいさんとおばあさんは喜びました。
数日後、また出来上がりました。「今度は惣兵衛じゃ」、「これは叉衛門に」と次々とやりました。もう何十反とやりました。
とうとう、娘は、「おじいさん、わたしの体が言うことを聞きません。どうぞ許してください」と頼みました。
おじいさんは、「誠に申し訳ないことをした。おまえがどんどん痩せていくのは不憫じゃ」と答えました。「後の者には、わしから話しておこう」と言いましたが、何だか悲しそうでした。
それを見た娘は、「わかりました。おじいさんとおばあさんが喜ぶ顔を見たいので、何とかします」と言いました。
その晩、娘は、二人が寝静まってから、そっと出ていきました。そして、仲間に助けを求めました。仲間も、二つ返事で引き受けてくれました。みんなで家に戻って、せっせと布を降りました。
その後、娘が出てこなくなりました。心配したおじいさんは、約束を破って、部屋を覗きました。すると、10羽の鶴が死んでいました。
おじいさんとおばあさんは、自分たちがあまりにひどいことをしたという後悔のあまり、しばらくして死んでしまいました。
村の人は、布が高く売れたので、今までのように働こうとしませんでした。また飢饉がやってきたときには、それを乗りこえる術もなく、みんな死んでしまいました。
その村には人も鶴もいなくなりましたとさ。