雲の上の物語(5)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(42)

「雲の上の物語」
―すごい風だな。だから、しばらくオーストラリアにいたほうがよかったんだ
―おまえがホームシックになって、早く帰ろうと泣きだしたんじゃないか
―でも、風景はすばらしくて、友だちもできたんだけど、何となく落ちつかなくてな
―この時期は、いつもなら穏やかなのにね
―この時期?
―イルミネーションがつくころよ
―イルミネーション?
―きれいな照明のことよ
―ほんとにきれいだ。いつまで見ていても飽きない
―イルミネーションがつく場所は毎年増えているように思わないか
―最近そうね
―わかった!おまえは、これが見たくて帰ろうと言ったんだろう?
―みんなもそうだろう。きれいし、人間もゆっくり歩いて幸せそうじゃないか
―確かに、日頃はせかせか歩いているものね
―でも、これは何の意味があるんだい?
―クリスマスよ、クリスマス
―クリスマス?
―偉い人間が生まれたことをお祝いする行事よ。日本だけでなく、世界中がお祝いするそうよ。聞いたことないの?
―誰も、ぼくのようなビニール傘を連れていかないから、聞いたことなかった
―キリストという人間の誕生日だろう?チュー助は、日本では、キリスト教を信じなくても、ちゃっかりお祝いだけすると言っていたな。しかも、照明をするための電気が不足しているそうだよ
―チュー助は何でも知っているものな
―チュー助やチュー吉は人間のお下がりでくらしているけど、ぼくらは、景気がよかろうと悪かろうと関係ない
―確かにそうだけど、ぼくらは人間が作ったものだから、関係がないとも言えないよ
―それに、チュー吉たちは、困った人間を助けようとしている。ミッキーマウスに人気があるのに、そのモデルの自分たちはなぜ嫌われるかという理不尽を自分たちのがんばりで解決しようとしている。それなのに、ぼくらは、のんびりイルミネーションを見ているだけだ
―でも、下に下りても何もできないじゃないか
―確かに人間を持ちあげることもできない
―あれもだめ、これもだめでは話が進まないよ
―チュー吉たちは小さいぞ
―しかも、空なんか飛べない
―毎年イルミネーションを見たいわ
―人間のためにできることは何だろう?
―自分たちができることを考えよう
―そうだ。無理なんかしなくてできることをね
―ぼくらは、いつまでも空にいられるからね
―とにかく、メリークリスマス
―メリークリスマス
空にいる傘たちは、いつまでも七色に輝くイルミネーションを見下ろしていました。

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