火事
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(69)
「火事」
「もうだめだ。早く逃げよう」ぼくはみんなに言った。
「でも、火に囲まれている。どこへ逃げるんだ。マイク!」デニスが答えた。「そうだ、あの池の中に入って、火が収まるのを待とう」と、ダリ―が、いつも泳いだり魚釣りをする池を指した。
「向こうは真っ赤に燃えさかっている。どうして行けるんだ!それに、ワニもいる」ベンヤミンは泣きそうだ。
そのとき、ゴオーという音がした。「あれは?」、「列車の音だ!」「ここを出ようとしているのだ」、「ぼくらも乗せてもらおう」「でも、ぼくらに気づかずに走りさってしまう」みんなは口々に言った。
「それじゃ。カーブのきつい森まで行こう」マサオが提案した。
「そうだ。あそこなら、必ずスピードを緩めるので、みんなで知らせよう」
「よし、カーブまで1キロで行ける」みんなは、煙の中を急いだ。息をするのも苦しかったが、何とか電車より早くつくことができた。
ハー、ハー、ハー。みんなは地面にうずくまり、少しで新鮮な空気を吸いこもうとした。
それから、ダリーは線路に耳を当てて、音を聞いた。そして、「もうすぐ来るぞ!」と叫んだ。
みんなは、すぐに立ちあがって、線路の中に入り、自分のシャツを脱ぎ、それを大きく振りながら、「おーい、止まってくれ!」、「おれたちも乗せてくれ!」と声をかぎりに叫んだ。
しかし、煙はさらにひどくなったためか、見えていても助ける余裕などないためか、いつものように少しスピードを緩めたが、そのまま進んでいった。
もはやこれまでかと思ったとき、ダリーが、「おい、みんな乗れ!」と叫んだ。
そちらに走ると、4両目からは無蓋(むがい)車になっていたのだ。先に乗っていたダリーが、他の4人を手助けして、5人とも列車に乗りこむことができたのだ。
みんなは、「フー、助かった」と仰向きに倒れこんだが、あわてて飛びおきた。荷台が、火傷するぐらい熱くなっていたのだ。
でも、これくらい辛抱しなければならない。夜になれば、寝るぐらいはできるだろう。
今は2208年の夏だ。こうして、ぼくらは、ようやくアフリカの東側を縦断する「africa east line」(AEL)に乗ることができた。
温暖化は、この2,30年、その勢いを増し、北極の氷はすでになく、南極大陸も黒々とした土しかない。
さらに、太平洋の島も海面下に消え、日本も二分の一を失った。インド洋に面した国もほとんどなく、アメリカやヨーロッパの国も風前の灯だ(かわいそうに、イタリアはすでにこの世にない)。
そして、世界はアフリカに期待をかけた。以前のように先進国からの経済的援助がなくなりつつあったので、アフリカは、自分たちを助けるかわりに、国を消滅させることに同意したのだ。
デニス、ダリー、ベンヤミン、マサオ、そして、ぼくマイクの5人も、「back to
hometown」計画の少年委員として、ここに派遣されていたのだ。
夜になり、ようやく寝転ぶことができたが、火事は収まらず、あちこちで、真っ赤な火が黒々とした森を包んでいた。
少し明るくなったとき、あっという声が聞こえた。ベンヤミンが列車から落ちたというのだ。確かに4人しかいない。
アフリカ生まれのダリーが、「助けにいってくる」と言ったが、ぼくは止めた。「行くな。きみも助からない」
みんな、膝を立てて、顔が見えないようにして泣いた。ぼくも、これでよかったのか自問した。それから、「世界から大勢の人間が来ている。必ず助かる」とみんなに言った。
2時間後、マサオが、「見ろ!」と突然叫んだ。振りかえると、4,5頭のライオンが、こちらに向かっていた。
「何だ、あれは!背中の上に人間が乗っている」、「ベンヤミンだ」、「何が起きたのだ!」
ぼくらがいる車両まで来たとき、ダリーは手を差しのべて、ベンヤミンを引きあげた。
「ただいま!」ベンヤミンはおどけたように言った。
「どうしたんだ?」、「ぼくもよくわからないけど、ごろごろころ転がった先にライオンたちがいたのだ。ぼくが転落をするのを見ていたのか、けがをしたところをみんながなめてくれた。そうそう、ライオンだけなく、ゾウやキリン、シマウマなんかもいた」
「非常事態だとわかっているんだな」とデニスが言った。
「ライオンが、おれの背中に捕まれ」というようにするんだが、ぼくは食べられるのかと思った。
すると、他のライオンがぼくをくわえて背中に乗せてくれた。仕方なしに背中に捕まったんだ。すると走りだしたというわけだ」
「ベンヤミンがよほどかわいそうに思えたんだな」
「でも、あそこには大火傷した動物も大勢いた。ぼくを乗せてくれたライオンも、足を火傷していた」
「それなら、ぼくらも助けられるときは助けよう」とぼくは言った。
それで、ダリーは、屋根を伝って電車の先頭車両を見に行った。運転者が入れば、自分たちがいるし、動物たちも乗るかもしれないと言いにいった。
しかし、誰もいないことがわかった。電車はソーラーパネルで動いているが、もう止められない。
やがて、本当にキリンやサイを助けることになった。みんな大火傷をしていた。スピードが下がったときはゾウも助けた。すでに5つの無蓋車が満杯になったのだ。
「もう動物を助けるのはやめよう。人間が助けを求めても、どうすることもできない」デニスが言った。
「動物たちも困っている。キリンは見張りをしてくれているし、ゾウやサイ、ワニなどは、ぼくら落ちないようにまわりを囲んでくれている」ベンヤミンが反対した。
「確かにそうだ。みんな苦しいのに、自分の役目を果たそうとしている」マサオも言った。
その後、30人近くの人間を助けたが、動物のおかげで、誰一人落ちなかった。
5日後、昔エジプトと言われた場所に入ったので、ぼくらはソーラーパネルを叩きわった。
ようやく火事から抜けだせたからだ。
しかし、電車が止ったのは、それから1日かかった。
幸い植林された森林があったので、動物たちはしばらくは大丈夫だろう。ぼくらも助けられてすぐ入院した。
ぼくが見てきたことがほんとのことか、あるいは幻想なのかわからなくなった。
みんなに出会ったら確かめたいと思う。南部では、まだ火事は続いている。