函館(3)
今日もムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「函館」(3)
小学校の修学旅行で、バスガイドに「一目惚れ」することなかったか。
同級生を好きになったようなもんではなく、胸が裂けそうになる。当時、第1回レコード大賞の「黒い花びら」が流行っていたけど、「恋の苦しさ、恋の悲しさ。もう恋なんてしたくな~い」とゆう歌詞が小学6年でわかった。
旅行に行く前は眠られへんかったし(今の子供はそんなことないやろ)、帰ってきても、観光地の思い出より、バスガイド(当時はどうゆうとったんやろ?まさか「バスガール」やなかったやろけど)の面影が離れなくなって、ふらふらになった。
それは、ぼくだけではなく、クラス全員でお礼の手紙を出したもんや。男子は、全員ラブレターを書く気持ちやったやろな。そらー、きれいな化粧をして、やさしかったもん。
ぼくは、高校のときも、修学旅行で九州へ行ったけど、熊本の大丸デパートにあった化粧品売り場のお姉さんを見てクラクラしてしもうた(40年以上前のことやから、どんな顔をしていたか忘れたけど)。
これは、日本中の小学生に共通の現象のようで、「探偵ナイトスクープ」に、ぼくぐらいの年令のもんが、修学旅行のバスガイドに会いたいとゆう依頼を出していた(今会うと、相手は80才ぐらいやで。思い出にしといたほうがええのに)。
とにかく、旅先で知らんもんと話をすると、心に漣(さざなみ)が起きるのは、これが原点のような気がする。せやけど、今から会うのは、男やし、とっくに死んでいる。
タクシーは、五稜郭へ着いた。ここは、箱館(昔こう書いていた)戦争の舞台や。新撰組は好きではないけど、土方歳三が気になっていたので、一度来たかった。
部下の話では、「赤子が母親を慕うように、土方を頼った」と書いている。内輪喧嘩でも、土方が仲介をすれば、みんな仲直りした。よっぽど人徳があったんやろな。しかも、あの男前で、戦(いくさ)のプロやから、みんなついていく。
その敵であった坂本龍馬(暗殺したのは、新撰組やないらしいけど)も、夢を語って人を魅了した。
土方と坂本が、酒でも飲めば、「いっしょや、いっしょや」と意気投合したような気がする。夢と情熱があれば、何でもできたやろにな。二人は、一つ違いで、どっちも30過ぎで死んだ。
それから、立待岬にある石川啄木の墓に行った。啄木は、函館が好きで、家族まで呼んだ。やった。
「石持て追われた」のも、住職の父親が詐欺のようなことばっかりしていたからや。それがケチのつきはじめで、東京で30前で死んだ。葬式から出版まで段取りした妻の節子は、翌年死んだ。
そこには、啄木の知人の与謝野晶子・鉄幹の碑がある。鉄幹の人気が落ちて、毎日庭でアリを殺しているのを見かねて、晶子が、鉄幹をフランスでも行かそうと、どんな仕事も断らんかった(晶子は、15,6人ぐらい子供がいた。10年ほど前、何番目かの娘さんから話を聞いたことがある。上品なおばあさんで、『母親は冗談ばっかり言って、ほんとに楽しい人でした』とゆうていた。議論に明けくれた人生のように思えるけど)。
その日、神父を含めて、出あったもん(ほとんど死んでいるけど)を思うと悲しくなった。
なかなか思うようにいかへんでも、みんな一生懸命生きてきた。そのけなげさが悲しい(お前は、何もんやゆわれそうやけど)。バスガイドのように、しばらく心から離れへんやろ。
すると、酒が飲みたくなった(もともと飲みたかったやろてか)。
安くてうまい料理は、地元のもんが行く店にある(何か解禁になっても、地元の「食べ放題」ゆう店は、冷凍もんやから、地元のもんは行かへん。ホノルルで、そんな店を探したら、デニーズやったけど)。
ようやく見つけた店で、北海道弁を聞きながら飲んだ酒は、腹にしみわたった。